例外と本質について
あるいは、人をどうやって説得するか
-カラスの体色を例にして-
0.用語のすり合わせって大事だよね
議論を進める上で、使う言葉の意味を正しく把握することは何より大切です。
でないと、当然会話はすれ違ってしまいます。
参加者全員が言葉の意味を正しく把握するには、どうするか?
一般的な方法は、用語を定義することですね。

ハシブトガラス
例えば、カラスの色が黒いかどうか?
このことを話し合う時に、ある人はハシブトガラス・ハシボソガラスなど日本で一般的にカラスと呼ぶ鳥を考え、
別の人は古典分類におけるカラス科の鳥を考えたとします。
この場合、全く話は通じません。
なぜなら、カケスやカササギもカラス科の鳥ですが、カラスのように黒くありません。
カラス科の鳥を黒いとは普通に言えません。
一方で、カケスやカササギを(カラス科の鳥だからとはいえ)カラスと呼ぶにも無理があるでしょう。
双方が「カラスとは~の鳥だ。だから色は~だ」と言い合うだけでは、お互いに正しいことを言っているとしても、
何の意味もありませんね。
「今、論じているのは~だから、従ってここでいうカラスとは~とする」
という具合に、用語を定義してやっとスタートラインです。
あたりまえですが、議論の途中ですれ違いが起きたときも、一旦そこで停止して用語を明確にしてから再開しなければいけませんね。
そんなわけで、以下の文章で特に断り無くカラスと書いている場合には、
鳥綱スズメ目カラス科カラス属の動物
を指すこととします。
「いわゆる黒い典型的なカラス類(ウィキペディア)」で、先のハシブト・ハシボソやワタリガラスなどがいます。
1.例外は本質じゃないから例外なの
日本でポピュラーなハシブトガラス・ハシボソガラスは、全身が黒いカラスです。
ですが、全身が黒くない、真っ白のハシブト・ハシボソもいます。
それらは、アルビノだったり何かの病気だったり、あるいは白いペンキをかけられたか。
いずれにせよ、白いハシブト・ハシボソは実在します。
(白変種というものもありますが、詳しくないのでここではパスします。)
そのことをもって、「カラスは黒くない」と言ってよいでしょうか?

アルビノのハシボソガラス(目が赤い)
A「カラスは黒い。ハシブトもハシボソも、ワタリガラスだって黒い」
B「いや、白いハシボソはいる。カラスは黒いとはいえない」
A「それはアルビノか病気かでしょう。何れにせよ普通じゃない。例外で全体を言ったらだめだ」
B「例外だからといって全体から外して無視するのはおかしい。検討すべきハシボソの一部だ」
Aは、無視をしているわけじゃありません。
無視したら、例外かどうかなんてわかりません。
白いハシボソを含めてハシボソガラス全体を見たときに、白いハシボソは病気だったり色素異常だったりする。
だから(正常なハシボソではないから)例外として区別する。
だから、普通のハシボソガラスは黒いと言える。
無視しているのではなく、白いハシボソは何なのか検討したからこそ、例外だと言えるんですね。
ここでBがすべきことは「例外だという理由で無視するな」と言う事ではありません。
きちんとした根拠を持って、白いハシボソが例外ではないことを示さなくてはいけません。
例えば、例外として切り捨てるにはあまりにも多い(統計的に有意な)数が存在するとか。
何であれ、区別される例外ではなく、本質に関わる一部であることを示さなければ、先には進めません。
白いハシボソが例外ではないこと示すことができれば、ハシボソの体色を検討しなおして、新しい知見が得られるでしょう。
ハシボソガラスは一般的に黒いと思われているが、
(病気やアルビノではない/例外ではない)白いハシボソが存在する。
ゆえに、ハシボソが黒いとはいえない
2.正しい主張にも根拠は必要です
では、カラスは黒いのか黒くないのかと言えば、実は黒くありません。
読んで字のごとく、ムナジロガラスという胸が白いカラスがいます。
オオハシガラスは後頭部に白い部分があります。
カラスといえば必ず全身が真っ黒ということはありません。
でも、それがどれだけ正しくても、根拠が示せなければ相手は納得しません。

ムナジロガラス
A「カラスは黒い。ハシブトもハシボソも、ワタリガラスだって黒い」
B「いや、胸の部分が白いカラスがいる。全身黒いとは言えない」
A「そんなの聞いたこと無い。何ていう名前のカラス?どこにいる?何羽いる?」
B「名前とか生息地とかは関係ない。存在は確かだしそれが重要。ほかにも、後頭部が白いカラスだっている」
A「根拠を示して。想像で言わないで」
B「想像で言ってない。事実だ」
あとは水掛け論になるだけですね。
Aは根拠を述べていますから、根拠なしにBの意見を受け入れることは無いでしょう。
Bが何を重要と考えようとも、Bの主張の正誤に関係なく、根拠なしに自分の見解と異なる意見を受け入れる人はいません。
ここで鳥類図鑑なり何なりをBが示せば、Aはそれを検討・検証して、新しい知見が得られるでしょう。
カラスは一般的に黒いと思われているが、全身が黒くはないカラスが実在する。
ゆえに、カラスは黒いと言い切ることはできない
3.じつは例外だったらどうしよう
全身が黒くないカラスは実在します。それは間違いありません。
だから、カラスは黒くありません。
本当にそう言ってしまっていいんでしょうか。
ウィキペディアによれば、約40種類のカラス(カラス属の動物)がいるようです。
ムナジロやオオハシには、確かに白い部分があります。白くない部分は黒です。
一部が灰色のカラスもいます。それ以外の部分は黒です。
他のカラスも概ね黒いようです。
やっぱり、カラスは黒いんじゃないでしょうか?
だって、共通しているのは黒という色ですから。
カラスとは、真っ黒だとか(白や灰色交じりの)黒っぽい鳥というイメージは、簡単に崩せそうにありません。
人が見て黒いというイメージを持たないカラスは、一部の例外かもしれません。
カラスが黒いかどうかを決定するには、まだまだ次のようなことを検討(再検証)しないといけないようです。
白や灰色以外の色はあるか?
黒い部分の無いカラスはいるか?
全身が黒いカラスとそうでないカラスの比率はどのくらいか?
全身が黒くないカラスのうち、人が見て黒くないと思うカラスは何か?
黒くない部分がどの程度の大きさであれば、人が見て黒いと思わないか?
「一般的」とは人口比で何%位が必要か?
などなど。

コクマルガラス(黒色型と淡色型)
これらを調べ根拠を積み上げて、ようやく次のようなことが言えるかもしれません。
カラスは一般的に黒いと思われているが、全身が黒くはないカラスは実在する。
それらのカラスは統計的に有意な数が存在する。
また、それを見た人のXX%が黒くないカラスだと判断する。
ゆえにカラスは一般的に黒いと言い切ることはできない
あるいは、
カラスは一般的に黒いと思われているが、全身が黒くはないカラスは実在する。
しかし、それを見た人のXX%は黒いカラスだと判断する。
黒ではないと判断されるカラスの数は、統計的に有意ではない。
ゆえにカラスは一般的に黒いといえる
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数学の証明問題であれば、一つの例外を示すことで前提を覆すことができます。
議論においては、相手の主張の根幹をなす部分の矛盾を指摘するなどしない限り、
一つの例外は単に例外であるにすぎません。
そして、それは既に本質があるから例外とされるのです。
例外とされることを本質に組み込む為には、それが実際には例外ではないことを示すしかありません。
根拠、必要です。
例外とされていたことや既知ではなかったことを組み込んで、新しい知見が得られたと思っても
再検証、必要です。
少なくとも、思いつくままに言葉を並べてできるような事じゃありません。
こういったことを積み重ねて、先人たちが今日の知見を築き上げたことに、素直に感謝したいですね。

ワタリガラス(私が一番好きなカラス)
∞.それでも人は動かせないかも
大変な苦労をして、カラスは黒いかそうでないかを検討して、
人にそれを説明(~の基準で~の評価をして…とかいろいろ)したとしましょう。
B「だから、カラスは黒いとはいえません」
C「そうですか、そういう基準ならそうかもしれませんね。でも、カラスの色は黒だと思いますよ」
B「これだけ説明して、どうしてその言葉になるんですか」
C「だって、自分でそう思いますから。カラスは黒いって」
B「それはあなたの主観に過ぎません」
C「ええ、私は主観で判断しますから」
世の中には、道理が通じない人がいっぱいいるのです。