あらすじ
高校時代、クラスで人気だった女子は次々と違う男と交際するという噂のあった人でした。私も彼女の魅力に打ち勝てず近づきましたが、意外と気の合う仲になれました。そんなとき、彼女の方から自宅への誘いがあり、私は放課後に彼女の家に行くことになりました。

学校帰りに自宅と反対方向の電車に乗るだけでとても緊張しました。二人で電車に乗るのも初めてでした。混んだ電車の中で初めて近くに彼女が来て、これもドキドキしました。彼女の甘い香りと眩しいブラウスの夏服姿に魅せられ、こんなふうに二人で学校に通えたらどんなに幸せだろうと思ったりしました。自転車通学の私は、誰かと一緒に帰るという経験すらしたことがありませんでした。
彼女の家に着くと玄関に彼女のお母さまが出迎えてくれました。娘が連れてきた男の子ということでとても歓待してくれましたが、ちょっと恐縮しました。そのあと二階の彼女の部屋に上がりました。誤解のないようにするため、扉は閉めませんでした。もうここで分かると思いますが、自宅に招くというのに誘惑の意味合いはありませんでした。高校男子だから少しだけ淡い期待もしましたが、何もなくてよかったと思います。ここでまちがいがあったら、やはり噂どおりの女ということになって終わったかもしれません。
相手の家族の中でも彼女がもてることは周知の事実だったようで、その人が初めてつれてきた男子ということで相手の弟や妹が家に帰るたびに部屋を覗きに来ました。あの姉が不細工な男を連れてきたと思ったのでしょうか、下の部屋であれが本当に彼氏なのか?という弟の声が聞こえてきました。さすがにこのときは彼女が下に降りて、友達なのだから変なことは言わないでくれと言っていました。ああ「友達」なのだなと、少し残念に思いました。

誰かと仲良くなるには、秘密を共有することが一番だと思います。他の人は知らないけど、二人は知っている秘密があれば、それだけで特別な親近感が生じます。職場の土産に買った菓子でも、他の人から内緒で一つだけ多くもらうだけで、急に特別な感情が生じたりします。
菓子一つでもそうなのですから、彼女の部屋で会うとなると、秘密の度合いが全然違ってきます。放課後の学校や下校途中の寄り道とは違う親密さ。あのとき私はそんな高揚した気分に酔っていました。何を話したのかはよく覚えていませんが、午後3時から夜9時までいました。

(実際にはこんな相合傘はしなかったけど)
駅前の商店街で偶然、クラスメイトの男子に見られてしまいました。「お帰りですか?」とからかわれた時には、顔から火が出そうでした。私が彼女の家に行ったことは明白でした。あいつは彼女の家にあがったらしい、翌日からそんな噂が流れました。
(つづく)