為替水準が決まる4つの要因を知り、日本経済の問題点を考察しよう!
2010年1月6日
円高が進んでいる。それは生活や仕事にどんな影響を及ぼすのか。そもそも、なぜ円高になるのか。為替の基本を学ばなければいけない。私たちの生活を大きく変える経済の動きを知ることが、自衛策につながる。
円高が日本経済を揺さぶっています。リーマンショックの前までは1ドル110円近い水準だった円相場が、2009年12月、90円を切るところまで上昇しました。なぜこんな短期間で円高が進むのか、円高によってどのような影響が出ているのか、疑問に思う人が多いと思います。そこで、今回は為替について基本から学んでいきましょう。
為替水準は通貨の需給関係によって決まります。市場は為替の需給、すなわち、ドルや円に対する需要が伸びるか縮むかで、円高に振れたり、円安に振れたりするのです。
そして、その需給に影響を与えるのは、主として次の4つの要因です。各国の物価、金利水準、貿易収支、通貨発行量です。これらの要因を順番に見ていきましょう。
まず、各国の物価で為替が決まるということから説明します。これは専門用語では「購買力平価」と言います。外国のものが安ければどんどん輸入するので、その分、外貨の価値が上がり、自国通貨の価値が下がります。
2番目は金利水準です。各国通貨ごとに金利は異なります。例えば、ある通貨を買って1年間運用し、元の通貨に戻すと考えた場合、ある通貨の方が元の通貨よりも金利が高い時は、その為替水準が1年後まで続くとしたら、ある通貨を買って運用した方が必ず儲かってしまいます。だから金利差分だけ、より金利が低い国の為替に、常に上がる方向でプレッシャーがかかり続けます。
円を借りて、それを外貨にして運用することを「円キャリー取引」と言います。円キャリーが続く時には円が売られて外貨が買われるので円安傾向になり、今回のような経済危機などが起きると巻き戻されて、円高傾向になるのです。リーマンショックによって、これまで円をドルに換えて運用していたファンドが、一気に解約をしたことで円高が進みました。
3番目の要因は貿易収支です。例えば、貿易黒字を出している日本は、受け取った外貨を、日本の社員の給料を払うためなどに自国通貨に換える必要があるので、自国通貨の需要が増えて、円が強くなります。もっとも実際には、そのまま外国で工場を建てたり、再投資したりするケースもあるので、単純に貿易収支だけで為替が動くわけではありません。
ここまで3つの要因について説明しましたが、かえって為替は何で決まるのか分かりにくくなったかもしれません。一番大きな要因は4番目の通貨発行量です。多くの人は、お金はモノと違って増産や減産ができないように思っていますが、実はお金の量は中央銀行がある程度コントロールできるのです。
国力の強さとは関係ない
今、世界中が金融緩和合戦になっています。各国とも自国通貨の為替水準を下げたくて仕方ないのです。あるいは、金利を下げたくて仕方ないのです。そんな中で、日本だけが金融を引き締め気味にすれば、円高になるのは当然です。今回、円高になったのは、リーマンショック後、米国は急激に通貨発行量を増やしたのに、日本銀行がこれまで通りの量の発行しかしなかったためと考えます。
つまり為替は、実は国力の強さとは関係がない、他のテクニカルな要因で決まっているのです。例えば、円高で円が強くても、円の絶対的な流通量が少なければ、結局、経済規模は小さくなってしまいます。これが現状のデフレと言われている状態です。
では、なぜ購買力平価を通り越したような過度な円高が困るのでしょうか。一番分かりやすいのは、輸出産業の売上高です。海外で外貨で稼いだ売上高を円換算すると、円高になった分だけ減ってしまいます。トヨタ自動車もパナソニックも、1ドル100円と90円では、円換算した時の売上高がまるで違います。
一方、国内産業であれば、輸入品との価格競争が厳しくなります。輸入した方が安いのなら、誰も国内品を買いません。いずれにしろ、結果的に海外生産が増えます。
そして、円高で一番困るのは、雇用が減り、失業者が増えることです。しかも、若年層や女性、地方など、一番弱いところに強く影響が及びます。また、円高によってデフレが進みます。
中国経済の競争力が高いのは、中国が人為的に人民元を安い状態にしているからです。このように、為替については常に各国とも、安くしておきたいという誘因が働くのです。
しかし、各国で通貨安競争を繰り広げると、社会は不安定になります。これを避けるためには、為替水準を数%程度の変動に収めるような政策が必要と考えます。普通は、相場変動が一定のレンジに収まるような通貨発行量を逆算して、コントロールするのです。
為替をコントロールするためには、金利水準や物価水準をコントロールする必要があり、特に物価水準について目標を定めることをインフレ目標政策と呼びます。おおむね1年に1~3%の緩やかなインフレを起こすことで、経済成長とイノベーションを引き起こす余力を作るのです。これは、日本銀行以外の世界の主要な中央銀行が、既に様々な形で採用し、結果を出しています。
ところが、日本はこの点で大きく出遅れています。原因の一つは、デフレの状態は既得権者には良いことが多いからです。1億円以上の金融資産を持つ、日本の全世帯のわずか1.8%の人々や、給与が基本的に下がらない公務員などは、デフレの方が物価が安くて助かります。ところが、ほとんどの人にとっては、物価が安くなるインパクトよりも、自分の給与減少や失業リスクの方が大きいのです。
私たちの社会全体の成長にとって大事なことは、イノベーションを促し、未来に投資する人に報いることであり、既得権者を守ることではありません。
これまで円高やデフレなどの勉強を避けてきた人は、これを機会にぜひ、マクロ経済が私たちの生活や仕事にどう影響しているのか、考えてください。そして、政府に対して声を上げましょう。経済の動きこそが、私たちの生活を大きく変える根本なのですから。