中国人観光客が殺到するまでは、バトゥ・ケイブでは、東南アジア独特の気候が産む、手頃な値段のパイナップルやパパイヤなどが売られていた。
しかし、中国人によるドリアン景気にあやかりたい“ヒンドゥー教の神様”が、王様の王様といわれる中国人の大好物の最高種「猫山王(ムサンキング)」を名物として売るようになると、SNSなどで広まり、中国人観光客の間で、“ドリアン聖地”としても瞬く間に有名になった。
しかし、筆者が1月31日に訪れると、聖地は見事にもぬけの殻、人もまばらだった。中国人の観光客が多かったことを改めて、思い知らされた。
ドリアンを売るバングラディッシュ人は「“コロナショック”だ。中国人相手のドリアンも、まったく売れず、あと半年ぐらいは、マレーシア政府が団体客を中国から受け入れないといってるので、大変だ」と嘆く。
「帰りたくない」中国人と「放浪滞在」
店の軒先には、聖なる動物と崇められているサルが、中国人に代わって、ドリアンをじっと見つめ狙っていた。
すると、中国人らしき女性2人が、ドリアンを物色し始めた。「どこからですか?」と聞くと、「上海からです」と答えた。シンガポールなど1ヵ月ほど東南アジアに滞在していて、大好きなマレーシアのランカウイ島から今日、クアラルンプール入りしたばかりだという。
1ヵ月の間に中国は大変なことになっているよ、というと、静かに頷き、「仕事があるのでもうすぐ中国に帰国します」と話し、「でも、本当はウイルスのほとぼりが冷めるまで、中国には帰りたくない。マレーシアなど東南アジア域内を周って、引き続き滞在したい」と続けた。
彼女らがいう“延長滞在”というのは、東南アジアに不法滞在をしている外国人労働者の間で、「NO ビザ」の国を梯子し、各国の法整備の隙間を潜り抜け、域内を「放浪する滞在」のことだ。
東南アジアの優等生とよばれてきたマレーシアやシンガポールなどでは、外国人の労働者が不可欠。特に、ローカルが就きたがらない、工事現場、レストランやホテル、さらにはメイド(家政婦、高齢者の付添人、ベイビーシッターなど)につくのは、インドネシア、バングラディシュ、フィリピン、インド、中国、カンボジア、ネパールなどからの出稼ぎ労働者が多い。
そして、特にマレーシアでは、その多くが違法労働者だ。彼らの人口は、今では最大のマレー系に次ぐもので、中国系の人口を抜いてしまった。“勢力拡大で市民権”を獲得したようなものだ。
実は、彼らは、観光目的で入国し、その猶予期間が切れる前に今度は隣国へ移動。さらに、そこでビザが切れる前に第3国へと移動して違法就労している。
それはまるで環状線のように、マレーシア→タイ→フィリピン→シンガポールといった具合に、このルートを繰り返しながら、法整備をすり抜けていく。
入管制度が厳しいといわれるシンガポールでもフィリピンからこの手法で入国する人も多く、「労働者不足のシンガポールも甘く見ている」(外国メディア)ところもあるらしい。
今回、新型コロナウイルスですでに海外に滞在している中国人の間で、ウイルスが猛威を振るう母国・中国に帰るのを嫌い、東南アジア域内を放浪する、こうした不法滞在を決めこんでいる観光客も多いのだという。
先の上海出身の女性たちも、「お金があれば、マレーシアなど東南アジアに残りたい」という。