ウィルスとしての言語の「支配」を極限まで推し進めた世界を描こうとした作家に、SF作家の伊藤計劃がいる。伊藤の代表作『虐殺器官』には、その文法を用いて語られた演説や広告コピーなどに触れた人が互いに殺しあう「虐殺の文法」というものが登場する。『虐殺器官』の結末では、「虐殺の文法」が世界を席巻し、人々が互いに殺し合う凄惨なディストピアが出現する。
「虐殺の文法」を用いて語られた演説や広告のキャッチコピーは表面上に語られている「意味」とは別に、ひとびとの敵意を増幅し活性化させる効果を持つ。
インフォデミックは、善意や他愛ない悪戯心で生まれたデマや誤情報が、ツイートされ、リツイートされ、シェアされ拡散することで自己複製し変容していく状態を指す呼称だった。伊藤が『虐殺器官』で描いたような、語り手の意図に関わらず、表面上の「意味」にも関係なく、その語りを耳にしたり目にしたりした者を虐殺へと駆り立てる「虐殺の文法」とインフォデミックはもちろん別のものだ。しかし、言語とその拡散が、ひとの命を危険に晒すという意味では同じである。
まあ、これは言い過ぎだが悪意はない。
ただ、心の隅にでも意識しておいたほうがよい。