金と財界要人、井上 馨との【今で言うODA援助】交渉記録の詳細です。

井上 馨(いのうえ かおる、天保6年11月28日(1836年1月16日) - 大正4年(1915年)9月1日)は、日本の武士(長州藩士)、政治家、実業家。本姓は源氏。清和源氏の一家系河内源氏の流れを汲む安芸国人毛利氏家臣・井上氏。桂太郎は娘婿。
井上馨と金 玉均との談話
金「小生も開拓史の官職は奉ずるが中央政府にて統理衙門の列にも居り、財政の一部を担当しているが、何を申すも国幣欠乏につき外債を募ることに内議定まり貴国に渡航したのである。なお種々商議を乞いたい。」
卿「金は何の用なのか。」
金「目下我が国で銀貨並びに常平通宝の一枚で五文に当たるものを鋳造しているが、これ位では何分用いる所に足りない。ゆえに外債を起こして兵備、鉱山等に従事いたしたい内命を奉じて来航した。」
卿「外債はどの国で起こされるのか。」
金「貴国で募りたい。ゆえに貴国に渡航した。」
卿「我が国人民で貸す者があれば拙者は異論はない。」
金「拙者には別段懇意の人がないので所詮出来難い。何れ閣下の御尽力を願いたい。」
卿「いかほどなのか。」
金「三百万円ぐらい募りたい。」
卿「この前にお借り入れなられた時も拙者は保証をしなかった。今回も貴国政府は大丈夫である事を保証して募集に応じさせることは出来難い。」
金「前の十七万円の時に種々閣下の御斡旋によって整った。今日、我が国で最も大関係あるものは財政の一条でありこれを遂げないなら何事にも着手することが出来ない。ゆえに是非とも外債を募らざるを得ない時につき内命を奉じて渡航した。」
卿「拙者は外務卿の地位にあるのでその儀はお断り申したい。前の十七万円も何の用に立ったか分からない。練兵、開拓、開鉱等、なるほど要務ではあろうが貴下等は金を用いることのみ御承知で、その切を収める前途のことに至っては何にもお分かりない。」
金「一言も無い。しかしその十七万円は五万円は救恤金に充て、その余で器械等も買い入れたが、元来少数のことゆえ格別の利益を収めることは出来難い。今度は外債を募り得たら開鉱等のことも外国人を招聘して実際に着手する積りである。」
卿「支那から借り入れられた金はどうなったのか。」
金「支那からは閔氏が二十万両を借り受けた。これは海関の入用に充てるために貯めている。」
卿「前の十七万円の内、なお正金銀行に残りがあることも承知している。また人に詐り取られたことも承知している。随分貴下は不始末の人である。そして実際に朝鮮のために図ると思う人は狐疑を受け、また折角要職に地位を占めたかと思えば忽ちにしてその職を辞することとなり、朝変暮更で実に貴政府全権のあるところを知るに由なく、また信を置くにも由なし。ゆえにこの三百万円も拙者が証人となって募ることは出来難い。」
金「十七万円の余りもなお二万円あって器械も買い生徒も派遣した。なるほど金の使用法に付いて外からは分かりかねられるところもあろうが、このたびの三百万円も、朝鮮のためを思い我が主上を御信用なられることであると思うので御尽力くだされたい。」
卿「貴国主上にはこれまで拝謁したこともなく、またもとより親近を忝くしたこともない。御信用の申し上げようもなく、これまでこの方から信用を置くと否とは貴政府の固否如何を見るより外にない。貴国では支那から借り入れる金は支那党のみこれを用いるということも承っている。そのような都合ではとても信用は置き難い。且つ貴下は経済の道を御承知ないであろうが、今日の三百万円の金は通常の利子を一割付けとして十年後に至れば倍数に上るものである。又たとえこの金で直ちに開拓開鉱に着手したとしても、今日開いて翌日から利益を収めるということはない。このような事情では、後日になって軍艦を以って貴国に向かい賠償を要求するような結果にならないとも言えない。ゆえに拙者に於いては保証し難い。」
金「我が政府の堅牢でないので閣下は保証をしないとのことなら既に貴国では出来ないものなので、米英に図っても同じであろう。しかし金を借りるには抵当利子を要するのは普通の道理であって、もとよりその辺の見込みも立っているので閣下には我が国をお見捨てなく御親切にあらばなにとぞこの金を御募り下されたい。」
卿「金を貸さないと親切でないと言われるか。実にその意を解し難い。拙者は只々前途のことを思って申している。」
金「急務ゆえお願い致したい。」
卿「先々の憂いはどうなされるか。開拓開鉱に着手して将来どれだけの利益を収めるという精細の計算は立てているのか。」
金「それらはまだ計算が立っていない。しかし今その償還の道をお話する。」
卿「償却はどうなされるか。」
金「いずれ抵当物件を立てる。」
卿「抵当は何なのか。」
金「税関でも鉱山でも出資者の求めに応じる。」
卿「税関からはいくらの収入があるのか。」
金「税関はまだ立ててないので計り難い。鉱山でもよい。」
卿「鉱山からはいくらの採れ高があるのか。」
金「出資者から実地に検測するのがよいと思う。」
卿「これまで政府は鉱山からどれだけ宛採取したのか。」
金「これまでまだ着手してないので年々の量は図り難いが、検測の上で見込みを立てて金を借り入れて着手いたす考えである。」
卿「何はともあれ、政府の協和を第一とする。即ち財政のことも一方からよくすれば一方から損する姿にて、所詮協和一局を遂げないなら、その礎を固くすることはできない。且つ外債を起こしても今日の予算は後日になって必ず誤算を生ずるもので、我が国に於てもその例がある。又その抵当には鉱山を以ってすると言われるが、その鉱山が果たして充分に採算の見込みがあるものなら、唐景星が一見して直ちに招商局の金をも出して着手するであろうに、そうでもないところを見るとそれほど利益を認められないのであろう。それなら我が出資者に調べさせても矢張り同じであろう。また税関とても役人の給金とその他の諸費を引けば大抵は出入の差はないだろう。ゆえにこれを抵当とするのも難しいことである。貴下はただ今の(資金の)困難だけを申されるが、拙者は後日に困難が起こることがあるのを恐れる。拙者としても外に随分体よく断る道もあるが、これまでの交際もあるのでこのように直言した。なお考えられるべきである。」
金「帰国後に再考するべし。しかし他日に我が政府も完全なる場合に至れば別段国債を起こすにも及ばない。今日なればこそ御願い致したいので閣下にもなお御考え下されたい。」
卿「考えも致すべきであるが、とても三百万円の場合は出来難い。」
金「只今のようにあちらこちらから十万二十万と借り入れては結局は抵当にも困ることなので今度御願いしたのであるが、お引き受け下されないなら朝鮮を御見捨てなされるという外思われない。」
卿「そのように思われるのであるから拙者においても致し方ない。何を申してもつまりは今日のように貴政府の不協和の有様では所詮信を置き難い。」
右にて終わる。