最前線で「北朝鮮への備え」がまったくできていなかった韓国軍
◆平和ボケ〃という病
韓国では近年、韓国軍の仮想敵は北朝鮮ではなく、まるで日本であるかのようなパフォーマンスが続いていた。
たとえば「国防自書」の表紙に日韓が領有権で対立している竹島(韓国名・独島)の写真を掲載し、島の上空を哨戒飛行する空軍機を誇示している。
海軍は新建造艦を「独島」とか「安重根」などと命名し、島周辺での海上パトロールを強調してきた。
昔は新年となると、南北軍事境界線の酷寒の山岳地帯で、北をキッとにらむ兵士の写真が出て「今年も国の守りには異常なし!」とアピールしたものだが、近年はもっばら南の方(日本)を見据える「独島警備隊」になっている。
ソウル近郊で対岸が北という江華島の芸妓峰では、毎年クリスマスとなると前線部隊のクリスマスツリーが話題だったが、マスコミに登場しなくなって久しい。
哨戒艦撃沈に次ぐ今回の建坪島砲撃に、韓国マスコミ(世論)は北朝鮮への怒りを爆発させ、やられっ放しの韓国軍を非難している。
しかし北の脅威と北への備えをいい加減にし「独島防衛」などと迂遠なことを先頭に立ってやってきたのは、マスコミではなかったのか。
今回、その大きなツケが回ってきたのだ。
韓国マスコミに反省は見られない。
韓国軍の有事作戦は「比例性原則」だという。やられたらとりあえず同じ武器で同じだけ反撃するというのだ。
軍事独裁の北朝鮮軍を前に、これ自体えらく遠慮したものだが、今回の延坪島砲撃戦では北の170発に韓国軍は80発しか反撃していない。北は多連装ロケット砲まで撃ち込んでいるのに、島の韓国軍にはロケット砲はなかった。
「海の火薬庫」でこれまでしばしば軍事衝突が起きているのに、韓国軍は装備からして「比例性」になっていない。
最前線で「北への備え」がまったくできていなかったのだ。
同じ海域で北朝鮮の魚雷に哨戒艦を撃沈ぎれたのはつい3月のこと。あの時も対北警戒態勢の強化や即応態勢の整備が声高に語られたが、まったく生きていない。
徴兵制のある国民皆兵の国では、軍隊は一般社会の雰囲気の影響を受けやすい。
平時はとくにそうだ。大学生が中心で兵営生活は2年ほどという韓国軍は、現代若者社会の縮図でもある。
彼らは対北融和政権だった金大中・虚武鉱政権下(1998-2008年)の10年の教育で、学校やマスコミを通じ親北・左翼教育をたっぷり受けた若者たちだ。北朝鮮への警戒心を解体させ〝平和ボケ″になってしまった韓国社会の延長線上にある。
これじゃ北への気合は人らない。
これを立て直すのが軍隊生活だが、軍の指揮官たちが「北を刺激してはいけない」という融和政権の下で事なかれ主義に陥った。
北がらみの情報や報告は縮小され、いつも「たいしたことない」となった。
実際に聞いた話だが、近年、部隊指揮官がもっとも気を使う問題は事故だという。
部隊内の事故(病死や自殺、ケンカなどを含む)があると、遺族やマスコミが大騒ぎし、たちまち責任を取らされるからだ。
訓練や勤務も安全第一で、兵士から不満が出ないよう気配りが重要となる。
「太陽政策」という対北融和政策は北朝鮮の"変化″を誘導しようというものだった。
しかし変わったのは北朝鮮ではなく韓国だった。
哨戒艦撃沈では「北の犯行ではない」とする意見が国民の30%以上もあり、延坪島砲撃でも「責任は李明博政権の対北政策失敗にある」との声が広がる兆しだ。
韓国が「失われた10年」を立て直すには李明博政権の5年では足りない。少なくともさらに5年、保守政権も10年続かないとこの病は治らない。
SAPIO 2011-1-6 より
【PROFILE】くろだ・かつひろ1941年生まれ。京都大学卒。共同通信ソウル支局長を経て89年から産経新聞ソウル支局長。著書に『韓国人の歴史観』(文春新書)、『ソウル発 これが韓国主義』(阪急コミュニケーションズ刊)など多数。