
【ソウル=黒田勝弘】北朝鮮が
延坪島砲撃など黄海で軍事緊張を高めている背景には、朝鮮戦争休戦(195
3年)以来、不利になっている領海の拡大など軍事的、政治的面での多目的作
戦がある。
軍事的緊張激化で海の南北境界線の“紛争化”を米国など国際社会に印象
付ける一方、韓国に対しては“戦争の恐怖”で世論を対北平和・対話ムードに誘
導し、李明博・保守政権を揺さぶる狙いがある。
一方、北朝鮮では対外的緊張で国民の危機感を高め、後継体制づくりという
不安定な権力過渡期を国民団結で乗り切る考えだ。
こうした作戦が結果的に金正恩後継者の手柄として、その崇拝・神格化につ
ながるというわけだ。したがって北朝鮮の狙いはあくまで局地紛争による“政治
的効果”であって、本格的な軍事衝突や全面戦を考えてのことではない。
北朝鮮が最近、軍事挑発を繰り返しているNLL(北方限界線)は朝鮮戦争休
戦に由来する。
休戦当時、北朝鮮周辺の制海権は韓国・国連軍が握っていて、北朝鮮軍はど
の島も支配していなかった。このため国連軍司令官は延坪島や白●(=領の頁
を羽の旧字体に)島など西海5島と北朝鮮本土の中間を海の境界線として、一
方的にNLLを設定した。
これに対し北朝鮮は当然、不満だったが海上支配力がなかったため事実上
認めてきた。艦艇や漁船などNLL外への進出も控えてきた。
しかし近年、西海5島を含む周辺海域は北朝鮮の領海だとしてNLL無視の動
きを見せ、南北間で衝突が相次いでいた。哨戒艦撃沈や延坪島砲撃はその延
長線上にある。北朝鮮は60年続いた休戦体制を力で変更しようというわけだ。
現在のNLL体制では、最北端の白●(=領の頁を羽の旧字体に)島から北朝
鮮の首都・平壌までは150キロ、韓国のソウルまでは210キロ。北にとっては
気になる距離だ。
しかし北が新たに主張している境界線だと、ソウルは北の領海から約100キ
ロで、韓国の対北防衛体制は大きく揺らぐ。仁川国際空港などすぐそこだ。
北朝鮮はNLLを軍事紛争化し、米国(国連軍)との間で新たな境界線設定な
ど“平和協定交渉”を狙っている。韓国としては軍事挑発を繰り返す金正日・正
恩軍事独裁政権を相手に、領海譲歩の現状変更には絶対に応じられない。
北朝鮮は一連の軍事挑発でNLLの紛争化に成功しつつあると評価している
はずだ。さらに“戦争脅迫”が韓国世論を李政権批判に向かわせ、新たな対北
融和政権誕生につながることを期待している。
これに対し韓国政府は「今度こそは断固たる対応」を取ることが北の軍事挑
発と狙いをくじく道と判断している。南北の緊張・対決は続きそうだ。
