今度はこれか?
12月24日、東芝は半導体のシステムLSI(大規模集積回路)の生産を韓国・サムスン電子に委託する方向で交渉していることを明らかにした。LSI事業は、巨額の開発投資が必要で収益性が低いため、同社は、回路図の設計に集中して生産は縮小し、コストを抑える方針である。
システムLSIは、大量情報の演算処理やデータ保存などの機能をひとつのチップにまとめた半導体であり、デジタル機器や自動車などの制御に欠かせないものである。顧客のリクエストに応じて多品種少量生産を行うため、メーカーは利幅を取りにくい。半導体回路の微細化を受け、新工場の建設に3,000億円規模の投資が必要とされることも負担である。
東芝の半導体事業は、利益の大半を、パソコンのメモリーカードなどに使うフラッシュメモリーによって稼いでおり、低迷するLSI事業は従来から売却または再編の対象であった。 また、ゲーム機や高級テレビ向けシステムLSIを生産する長崎工場はソニーに売却を検討中で、大分工場は世界的に需要が高まっている画像センサー専用の工場に転換予定と報じられている。
東芝は、システムLSIへの設備投資を削減することで、スマートフォン(高機能携帯電話)向けなどに急速に需要が拡大している次世代メモリー事業に資源を集中し、一方、サムスンは豊富な資金力を武器に競合半導体メーカーからの受託生産を進めている。東芝からの生産委託はその一環である。
前向きな面が強い不採算事業の整理
1980年代半ば、半導体は「産業のコメ」と呼ばれ、東芝、富士通、日立、NECなど日本企業が世界市場で5割以上のシェアを誇っていた。ところが、市場構造は大きく変わり、2009年には、米インテルとサムスン電子二社で世界の21.7%のシェアを占め、東芝は世界三位の売上といっても、シェアは4.7%に過ぎない。
今回の事例は、落ち目の日本企業が成長するアジア企業に不採算事業を売却し、買収した企業はますます規模の利益を追求すると解釈されることが一般的なのだろう。しかし、東芝の事例からは、グローバル市場の変化にうまく対応し、日本企業として理に適った行動をしているという違った面が見えてくる。
日本の半導体企業が世界市場を席巻していた1980年代までは、自動車、電機、化学、鉄鋼など、幅広い産業において日本企業は世界の上位を占めていた。この頃、日本企業は技術力と低コストで欧米企業のシェアを奪うことができたのである。80年代後半には、韓国、台湾、シンガポール、香港の成長が目立ってきたとはいえ、まだ日本の敵ではなく、中国は改革開放政策が始まってまだ数年という時期。資本主義の移行で混乱を続けていた。
当時の日本にとって競争相手はコストが高い欧米だけで、産業横断的に世界トップテン企業をいくつも抱えることができる「旧き良き時代」であった。ところが、インターネットなどの情報・通信革命と中国という巨大な競争相手の出現により、日本は産業横断的な振興策を継続できなくなった。
80年代の米国企業が日本企業に勝てなかったように、これからリストラしても日本企業がアジア企業に勝てる可能性はゼロに等しい。当然の帰結として、日本は自国が競争力を持った分野に資源集中し、そうでない事業はアジアの競争相手に売却せざるを得ない。
だが、東芝のサムスンへのLSI事業売却は競争に敗れたからではなく、自社の競争力が強い分野への資源集中という前向きな事例である。慶應義塾大学の池尾和人教授は、このような現象を「一部の産業分野を近隣諸国に譲る国際分業の利益追求」と表現している。
産業構造の変革と雇用減少への対策
ところが、国にとっては、一部の産業分野からの撤退は雇用の減少を意味する。サムスンが三顧の礼で迎えてくれる熟練労働者は良いが、競争力が乏しい人材は再雇用先を探すのは容易でない。円高に伴う企業の海外流出も同じ効果を生む。これら産業調整による失業や倒産を緩和するために取られた政策が1990年代の総合経済対策である。しかし、日本が強い分野を育成するのではなく、本来は淘汰される競争力が弱い産業を保護し、構造改革が遅れるという悪循環が10年以上も繰り返されてきた。
東芝は、2006年に加圧水型原発のメーカーの米ウェスティングハウスを買収したり、2008年にはNECと共同提案した大容量光ディスク「HD DVD」事業から撤退したりと、果敢に戦略的な動きをするという評価を得てきた。一方、事業再編を迅速に行わなかった大企業が多かったことで日本の産業構造改革は遅れた。
日本が中国や韓国と同じ土俵で競争せず、国際分業を進めて行く上で参考になるのは、1970年代に日本に追い上げられて製造業が衰退し、1980年以降、経済のサービス化と、金融、IT(情報技術)の成長産業化によって経済成長を遂げた米国である。米国は自国の競争力の将来をどのように展望していたのであろうか?
米国の競争力分析から得る示唆
2004年、「パルサミーノ・レポート」と呼ばれる米国の新しい競争力強化を提言した報告書が出された。この報告書は「イノベーションこそが経済成長の原動力となる。イノベーションによる経済成長を実現するためにも、我々の現状と将来を理解し、戦略を立てることが必要である。」と指摘している。レポートの実行計画は人材、投資資金、インフラの3大項目から構成され、37の提言から成っている。
(1)人材養成・確保に関して
①
多様な創造力のある高度な技術知識を有し訓練を積んだ人材を輩出する国家イノベーション教育戦略の策定
②
次世代イノベーターの養成教育の強化
③ グローバル経済で競争力のある労働者養成の教育
(2)イノベーションのための投資―イノベーションのための投資促進と資金調達の強化策
①
先端的で境界領域的研究の再活性化
② 起業家経済の活性化
③ リスク許容と長期的展望を持った投資活動の増強
(3)インフラ整備
① 国全体としてイノベーションによる成長戦略への合意形成
②
21世紀型の知的財産制度の創設
③ 米国の「モノ作り能力」の強化
④
21世紀型のイノベーションインフラの整備―ヘルスケア分野でのモデル事業の実施
2000年以前のこの種のレポートでは、主に日本との競争力比較を行っていたが、「パルミサーノ・レポート」ではインド、韓国、中国などの新興国を比較対象としている。新興国は単に安い労働力を利用した国際競争力を持つだけではなく、科学技術に関する教育にも力を入れることによって、イノベーションに向けた国家戦略を実行していると、同レポートは分析している。
現在、日本政府が掲げる成長戦略は上記の内容を研究して作られているが、実行が徹底されず、中途半端に終わりそうなことが問題である。国の長期ビジョンが選挙対策という名目で迷走することは不幸である。競争力がある分野の強化と、生産性を向上させることの重要性が再認識されるべきである。生産性が低い分野への資源配分を続けると、国全体が世界で埋没する道をたどるしかなくなる
売国奴め。