愛の祭り、綿々と 韓国・南原
2011年6月20日
春香祭であんどんを手に韓服姿で練り歩く少女たち=韓国南原、中野写す ※写真をクリックすると拡大します
妓生(キーセン=歌舞で酒宴をとりもつ女性)の母を持つ娘と、地域を治める両班(ヤンバン)を父に持つ息子が恋に落ちた。だが父の転任で息子も都に。新しい支配者が娘をわがものにしようとするが、娘は拒み投獄される。やがて科挙に受かり、官吏となって戻った息子が娘を助け出し、2人は永遠の愛を誓う。
朝鮮王朝時代の物語「春香伝(チュニャンジョン)」は、韓国でも北朝鮮でも映画化された民族を代表する文学作品だ。この純愛物語の舞台、韓国南西部の南原(ナムウォン)を5月初旬に訪ねた。主人公の「春香(チュニャン)」をまつる年に一度の祭りのさなかで、韓服(ハンボク)姿の少女たちが夜の町を練り歩く。手に持つあんどんに一片丹心(イルピョンタンシム)の文字。一途な真心の意味だ。
夜が明け、民族舞踊を春香にささげる祭礼をのぞいた。今年で81回目。始まったのは朝鮮半島を日本が植民地支配していた1931年だ。市の実行委員会によると、「民族の存在が脅かされる中、春香の貞節や純真さに倣って民族の精神を高めようとした」のが由来という。皇民化をはかる日本を、当時の人々は、春香を苦しめた悪役人と重ねあわせたのだろうか。春香をまつる小さなほこらを作って細々と始め、戦時下も途絶えることはなかった。
今年は、第1回に参加したチョ甲女(チョ・カムニョ、チョは専の寸が日)さん(88)が姿を見せた。南原で生まれ、8歳の時から祭礼に参加。後に韓国を代表する伝統舞踊家になる。「困難な中、行事が毎年続いてきたことをありがたく感じます」
南原には、16世紀末の豊臣秀吉による朝鮮出兵時に日本の武将に抗して犠牲になった民衆らを悼む「万人義塚」もあった。山里の小さな町で歴史は息づいている。(中野晃)