危機2年前、住宅変調に目背けたFRB 議事録で判明
【NQNニューヨーク=森安圭一郎】米連邦準備理事会(FRB)は12日、2006年に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の討議内容を詳しく記した議事録を公表した。米国発の金融危機が世界経済を揺さぶることになるのは2年後の2008年。その元凶となった米国の住宅バブルについて、当時の金融政策当局がほとんど目をつぶっていた姿が今回の議事録で明らかになった。世界経済のかじ取り役とも言われるFRBが「住宅神話」に過剰な自信を抱き、バブルの芽を摘む作業を怠っていたことが、後に世界を襲う「危機」を大きくしたともいえる。
▼「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の強さが住宅市場の軟着陸を支えるという多くの意見に賛成だ」「住宅市場が経済成長の妨げになる可能性は低いと思う」(いずれも06年3月27~28日、バーナンキ議長)
06年2月にFRB議長のバトンを前任のグリーンスパン氏から引き継いだバーナンキ氏。初めて議長席に座ったFOMCで口にしたのは、米住宅市場に対する楽観的な見方だった。急激な値上がりを続けてきた住宅価格が天井を打ったのは、まさにこの時期。3月のFOMCではFRBの事務局が調整を始めた住宅価格について、「目をつむったままローラー・コースターに乗っているような感じがする。下り坂がどれだけ長いのかは分からない」と不安を口にしているが、幹部らの楽観論が揺らぐことはなかった。
▼「住宅ローン業界で増殖する巧みな商品に、私は不安を抱いている」(5月10日、バイズFRB理事)
警鐘を鳴らす向きがなかったわけではない。ろくに審査もせず信用力の低い中低所得者層に住宅資金をどんどん貸し込む「サブプライムローン」の存在は、すでに広く知られていた。ほとんどは住宅価格の上昇を当て込んだ商品。ひとたび価格が下落に向かうと、返済が一気に行き詰まる設計となっていた。「消費者がショックに耐えられるかどうかは疑わしい」と警告するバイズ理事に、バーナンキ議長は強気の姿勢を崩さなかった。「住宅価格の下落は秩序だっている」
▼「(経済状況は)例外的に込み入っている」(6月28~29日、バーナンキ議長)
年央になるとバーナンキ議長も米経済の先行きの見通しにくさを認めるようになる。だが、翌07年の「サブプライム・ショック」や08年の「リーマン・ショック」が迫っている緊張感はうかがえない。金融危機を経た現在の観点では、FRBは市場にシグナルを発するのではなく、現実から目を背ける姿勢に終始したように映る。
▼「住宅市場の減速は、喜ばしくない住宅不況へと姿を変える可能性がある」(8月8日、サンフランシスコ連銀のイエレン総裁=現FRB副議長)
利上げを続けてきたFRBが「撃ち方やめ」に転じたのは、この会合だった。フェデラル・ファンド金利は据え置かれ、2年間の利上げ局面に終止符が打たれた。米経済の変調はもはや、FOMCのメンバー全員が認識していた。足りなかったのは、どれだけ深刻な事態になりつつあるのかという認識だった。
▼「最近の景気の弱さは主に住宅の減速によって生じているものと思われる。しかし、先行きの見通しを変えるほどのものではない」(12月12日、ニューヨーク連銀のガイトナー総裁=現財務長官)
年を締めくくる2006年最後の会合でも、政策当局者らは嵐の予兆を嗅ぎ取ってはいなかった。大半の討議は雇用やインフレについてさかれ、住宅市場の減速に弾みがついているのは過剰に上昇した分の調整にすぎないとの認識を多くが持っていた。1930年代の大恐慌以来となる荒波が間近に迫っていたが、危機感は薄い。「軟着陸は引き続き説得力のあるシナリオだ」。バーナンキ氏が議長就任後の初会合で口にした「軟着陸」という言葉は12月の会合でも繰り返された。みるみると状況が悪化しているにもかかわらず、この“希望的観測”が修正されることはなかった。
▼「あなたはすばらしい人だ。あなたが、我々の考えるよりもさらに優れた人だと将来判断する“リスク”は、他の選択肢よりも大きいだろう」(1月31日、ニューヨーク連銀のガイトナー総裁)
さかのぼって年明けの1月。18年半の任期を終え退任するグリーンスパン前議長に称賛を惜しまなかったのがガイトナー現財務長官だ。はなむけの言葉は、FRBが声明で米経済見通しのリスクバランスに言及する際の表現をもじっている。難解な「グリーンスパン語」を用いたジョークで、希代のマエストロ(巨匠)を送り出した。
グリーンスパン体制下のFRBが進めた超低金利政策が住宅市場の膨張と破裂を招き、その尻ぬぐいに自分が奔走することになろうとは、ガイトナー氏は想像もしていなかったに違いない。
(注)FOMCの議事録全文は5年間の守秘期間を経た後、公表する決まり。FRBは年8回あるFOMCの3週間後にそれぞれの「議事要旨」を公表するが、議論の概略だけで個別の発言主などは明かさない。
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=
96958A9C9381949EE3E1E2EA9E8DE3E1E2E3E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2