フランコ・バレージ「第二の長友を求めて」 (1/2)
ミランのレジェンドが日本サッカーに期待すること
2011年3月7日(月)
イタリアの名門ミランが日本初のオフィシャルサッカースクールを愛知・小牧市に開校する。ミランサッカーの普及を通して、子供たちの人間形成を手助けし、世界で通用する選手を育成することをミッションとしている。
スクール開校にあたり、ミランのレジェンド、フランコ・バレージ氏が来日。ミランアカデミー責任者のミケーレ・フェラリス氏、マーケティング担当のフランチェスコ・ギソ氏とともに、インタビューに応じた。ミランの育成メソッドはもちろん、長友佑都、ザッケローニ監督、日本人選手の可能性などについて、大いに語ってくれた。
■将来有望な選手に出会いたい
――日本では最近、長友佑都選手がインテルに移籍したこともあり、再びセリエAが注目を集めています。長友選手はご存じですか?
バレージ もちろん。彼は興味深い選手ですね。難しいと言われているセリエAで、日本のサッカー選手がどんなプレーを見せるのか、注視しています。
――今回、ミランは日本で初めてサッカースクールを開校するとのことですが、その目的を教えてください
フェラリス 一番の目的はタレントのスカウトです。ミランが展開するサッカースクール「スクオラ・カルチョ」は海外で12校、イタリア国内には95校あります。その最も大きな役割は、タレントのスカウト、発掘ですね。スクールでは、ミランで教えるテクニカルコーチが実際に来日して指導します。
――トレーニングはミランの下部組織と同じ方針、内容なのですか?
フェラリス スクールにはマニュアルがあります。5~18歳の子供たちを教育していくわけですが、1年ごとの単位で、各年に目標を設定して、それがきちんとできているかを1年の終わりにテストします。テストは次の年に進むために必要で、そこで何ができるか、できないかを確認します。また、インターネットを通してビデオを見ることも可能で、日本の監督やコーチもミランのトレーニングを見ることができます。メソッドのクオリティーをしっかりと保つためのシステムもでき上がっているのです。
――ミランのスクールはイタリア国内にとどまらず、世界各地に広がっています。世界戦略については、どう考えていますか?
バレージ サッカーの主要国で学校を作っていくこと、子供たちに経験してもらうことですね。われわれは、スポーツを経験することが非常に重要だと考えています。人間育成においても大切です。サッカースクールを通して、ミランのメソッドを世界の子供たちに伝えること。これが、われわれの基本方針です。
――日本で発掘した選手をイタリアに連れていく可能性もあるのですか? また、過去にそういったケースは?
バレージ もちろん、その可能性はあります。このほど開校したのは、4月から1年を通して学べるスクールですが、これまでも日本でサッカーキャンプをオーガナイズし、短期間のツアーを行ってきました。そこでのケースを説明しましょう。まずは、一番優秀な4名を選抜してミランに連れていき、ミニキャンプのような形でサッカー教室に参加してもらいます。その中で、さらに優秀な選手がいれば、年間を通してミランに招待し、実際にミランでプレーする選手にも会ってもらいます。
――日本で選手を発掘するにあたって、どんなことを期待していますか?
バレージ プロサッカー選手になれる可能性のある子供を探しています。もちろん、ミランでプレーしてくれれば一番いいですけれどね。
――では、日本人選手を選考する際の基準は? 一般的に日本人はフィジカルで劣ると言われていますが
バレージ とにかく才能です。各地の監督やコーチたちが、将来性があるかどうかを見極めます。将来有望な選手に出会いたいですね。
――「第二の長友」を探したいと?
バレージ そうですね。長友をもうちょっと大きくした選手です(笑)。長友のような選手で、もう少し背の高い選手が見つかったらいいですね。彼は技術もあるし、スピードもある。ただ、マイコンと比べると、どうしても身長は低いですよね。長友のようなベースを備えていて、もう少し大きい選手が見つかればいいなというのが希望です。
■イタリアでは守備が大切とたたき込まれる
――イタリアでは、子供たちへの指導でどんなことを大切にしているのですか?
バレージ 年齢によって違います。小さい子供たちには、みんなとのまとまり、どのようにボールを扱うかを大切にしています。もう少し年齢が上がったら、細かい指導をしていきます。技術、戦術を教えていくようになります。それから、日ごろの行動についても助言しますね。指導内容は年齢によって異なるので、一概には言えないと思いますが。
――最近は、スペインやドイツの育成が評価されています。イタリアではこの状況をどのようにとらえていますか?
バレージ わたしたちはスペインとドイツの間ですね。イタリアのサッカーはほかに類を見ないと思いますよ。文化もそうですし、歴史もあります。必ずしもいいことばかりではありませんでした。けれども、こうした背景があるから、ほかに類を見ないサッカーができ上がったのだと思います。
――守備にこだわりを持つイタリアでは、バレージさんをはじめ一流のDFをたくさん輩出してきました。その秘訣(ひけつ)は?
バレージ そうですか(笑)。守備が大切と子供のころからたたき込まれているので、一般的に良いDFが育つ環境があると思います。だから、次は攻撃面を改善していかないと。スペインは攻撃に長けていますよね。見習う点はあると思います。
――日本の場合、フィジカルの強い選手をFWでプレーさせる傾向があります。イタリアではこうした選手をDFとして育てるのですか?
バレージ そうですね、イタリアは逆ですね。体格のいい子はDFになります。DFに体格のいい子を配置するので、イタリアは大きい選手が多いです。小さいのに素晴らしいというDFはあまりいませんね。それほど大きくない場合は、MF、FWでプレーします。イタリアのみならず、ヨーロッパ全体でそういった傾向があります。
――現代サッカーでは、育成の重要性がしばしば語られます。しかし、ミランのトップチームには、下部組織出身の選手が少ないように思いますが
バレージ ミランが若者の育成に力を入れてないというわけではありません。当然、育成に力を入れているのですが、やはりミランくらいのビッグクラブになると、求められるもの、到達しなければならない目標が大きくなります。そうなると、すでに準備のできている選手(実績のある選手)を集めることになってしまいます。ただ、セリエAにはミランのユースから巣立った選手がたくさんいることも事実ですよ
ザッケローニ監督にとってビッグチャンス
――日本代表についてうかがいます。イタリア人から見て、ザッケローニ監督はどんな人ですか?
バレージ 彼は監督にふさわしい人だと思います。経験もあるし、監督としての準備もできています。イタリアの名門チームを率いて、スクデット(セリエA優勝)も取りました。彼にとって、日本代表の監督は大きなチャンス。今まで代表チームの監督経験はなかったので、異なる世界を見ることができるビッグチャンスだと思います。
――ザッケローニ監督との間で何かエピソードは?
バレージ わたしが(1997年に)現役引退してから、彼は(98年に)ミランの監督に就任しました。ですから、選手と監督という関係でのエピソードは残念ながらありません。でも、すごく信頼できる人で、しっかりした人というのは知っています。仕事も一生懸命やる、真面目なプロだと認識しています。オフェンシブなサッカーを好む監督で、ミランがスクデットを獲得したとき(98-99シーズン)も3トップを採用していましたよね。
――ザッケローニ監督は何よりもコミュニケーションを大事にする監督と伝えられています。イタリアでも実際に選手とのコミュニケーションに長けた監督という評判だったのですか?
バレージ コミュニケーションということは、彼はもう日本語ペラペラなんですか?(笑) コミュニケーションをとることは非常に重要ですよね。選手と監督の間に、いいフィーリングがあることは大切です。コミュニケーションをとることで、チーム全体で戦うという姿勢を保てます。彼はイタリアでもそれができる監督でした。さらに言えば、監督にとって献身的な選手がチームにいることもすごく重要です。日本の選手はプロ意識がすごく高くて、チームのために献身的だと聞いています。監督にとっては申し分ありません。
――ザッケローニ監督は日本代表と2012年までの契約を結んでいます。その後、ミランに復帰させようという計画はないですよね?
バレージ 大丈夫です。日本サッカーを尊重しましょう(笑)。
フェラリス ザッケローニ監督の仲間で、ステファノ・アグレスティコーチがいますよね。彼は昨年1年間、ミランのスクールを改善するプロジェクトのために、われわれと一緒に働いてくれました。何かあったら、ミランのスクールに来てもらうように言いましょうか(笑)。
バレージ でも、2014年ワールドカップ・ブラジル大会までは日本代表の監督でいてもらわないと困るということですよね。ブラジル大会まで延長してもらって、そこで準決勝まで進んだら、契約をさらに延長するというのはどうでしょう? わたしたちが伝えておきますよ。
■本田、森本、香川にも興味を持っている
――バレージさんから見た長友の評価を聞かせてください
バレージ サイドバックのプレーは難しいのですが、インテルではいい試合を経験しています。マイコンやキブーの代わりを務めているくらいですから、いいプレーをしていると思います。技術があって、スピードがある選手と認識しています。彼をはじめとして、ヨーロッパのリーグでプレーしている日本の選手が最近増えました。日本代表にとって、彼らの経験、彼らがチームに還元してくれる経験は、非常に重要なことだと思います。
――ほかに注目している日本人選手は?
バレージ 本田(圭佑)もいますね。技術もあるし、強いし、いい選手です。とても興味があります。カターニアの森本(貴幸)もそうです。現在はチームでの立場が大変そうですが。ドイツでもプレーしている選手がいますね。そう、ドルトムントの香川(真司)です。彼がたくさんゴールを決めていることは知っています。現在、ヨーロッパでプレーしている日本人は多いですよね。これは日本サッカーにとって、ポジティブな傾向です。
――日本人選手がイタリアで評価されるために、守備で足りないところは?
バレージ やはり体格がよくないと、イタリアではDFとしてプレーするのは難しいと思います。ただ、その体格がないのであれば、それを補うための技術、頭脳が必要です。わたしもそれほど大きい選手ではありませんでした。ですから、誰にでもチャンスはあるのではないでしょうか。わたしも体格を補おうと、頭を使いましたから。
――かつてジェノアでプレーした三浦知良選手を覚えていますか? 94-95シーズンの開幕戦、三浦選手はバレージさんと競り合った際に鼻を骨折しました。日本ではとても有名な出来事として知られています
バレージ あー、覚えてますよ。もちろん、わざとやったわけではないです。試合中の出来事なので、仕方なかったんです。
ギソ ミウラについては、ジェノアのティフォージ(熱狂的なファン)であるわたしにもぜひ言わせてほしい。ミウラはサンプドリアとのダービーでゴールを決めたんです。当時のジェノアはフランコ・スコーリオ監督が率いており、ミウラはイタリアでプレーした最初の日本人でした。ただ、スコーリオ監督はサッカーの見方がちょっと変わっていて、すごく質の高い選手だったのに、監督とあまり折り合いがつかなかったということは覚えています。ミウラはあまりプレー機会を与えられませんでしたが、とても質の高い選手でした。
――その三浦選手は44歳となった今も現役でプレーしています
バレージ 本当ですか? 今はどこでプレーを?
――J2の横浜FCです
バレージ それは素晴らしい。
――では最後に、日本の子供たちにメッセージをお願いします
バレージ 楽しんでサッカーをしてください。いつも情熱を持って、ワクワクしながらサッカーをしてください。それから、正しい人に指導を請うように。きちんと正しい指導をしてくれる人のもとで、しっかり成長していってほしいと思います。日本からミランでプレーする選手が生まれるように願っています。
<了>
■ACミランサッカースクール愛知
指導カテゴリー(対象年齢)
U-6(年中~6歳)、U-8(6~8歳)、U-10(8~10歳)、U-12(10~12歳)
※すべて男女が対象
トレーニングスケジュール
月曜日:U-6、U-8~10、U-10~12
火曜日:U-8~10、U-10~12
金曜日:U-8~10、U-10~12
※トレーニングは週1回(60分)
トレーニング場所
パークアリーナ小牧(小牧市スポーツ公園総合体育館)