700年前のサルの道具を発見、100世代継承、サルの道具使用は猿真似ではなかった
ナショナル ジオグラフィック日本版 7月13日(水)18時12分配信
ナッツ割るブラジルのヒゲオマキザル
ブラジルのサバンナにある遺跡から、アフリカを除く地域で人類以外がつくったものとしては最古の石器が発見された。お腹をすかせたオマキザルが数世紀前に使っていたハンマー(木の実に叩きつけて割るための石)と台石がそれだ。
これらの石器の存在は、少なくとも700年前から、ブラジルのセラ・ダ・カピバラ国立公園にすむオマキザルの1種、ヒゲオマキザル(Sapajus
libidinosus)がカシューの実を砕いて刺激成分のある殻を取り除いていたことを示している。今回の発見は、こうした行動が同地域にすむオマキザ
ルにとって昔から重要な意味を持っていたことを裏付けると同時に、人類以外の霊長類による道具の歴史の研究に新たな知見をもたらすものだ。彼らは石器を
使った加工技術を100世代は伝えていると見られる。
「私たちのさまざまな過去を解き明かすことによって、人間とは何かという見方に考古学は影響を与えてきました。人類以外の霊長類に対しても、同じようなこ
とができるのではないかと期待しています」と、論文の共著者で英オックスフォード大学の霊長類考古学研究グループを率いるマイケル・ハスラム氏は言う。
7月11日付けの学術誌「Current
Biology」に発表された論文によると、今回発見された道具類は、道具を使う霊長類がばらばらにごくわずかしか見つかっていない謎を解明する上でも役
立つという。道具を使うことが知られている人類以外の霊長類は今のところチンパンジー、ヒゲオマキザル、カニクイザルだけで、なぜこれらの種だけが道具を
手にしたのか、はっきりとした理由はまだわかっていない。
「技術誕生の謎を解き明かすには、石器を使用するすべての霊長類を観察することが肝要です。彼らに共通する特徴を見つけ、石器を使う存在になるには何が必
要なのかを見極めるのです」と論文の共著者で、同じくオックスフォード大学の霊長類考古学研究グループに所属する霊長類学者、リディア・ランクス氏は言
う。
これはとても大きなテーマであり、研究は始まったばかりだ。1300~4300年前にチンパンジーが道具を使用していたコートジボワールの3カ所の遺跡
を除けば、セラ・ダ・カピバラは、近代以前に人類以外の霊長類が石器を使った場所の報告としては2例目に過ぎない。ブラジルのヒゲオマキザルの場合、数世
紀前から残る民話や逸話に道具を使うサルの描写があったにも関わらず、彼らの石器の使用が自然発生的なものであることが確かめられたのは2004年になっ
てからだった。
今回の発見により、ヒゲオマキザルの行動が自然に発生したことだけでなく、それが古くから行われていたことが裏付けられたわけだ。
論文を執筆した考古学者と霊長類学者のチームは、サバンナで35平方メートルほどの広さの地面を丁寧に掘り進める中で、深さ0.72メートルまでの範囲で69個の石器を発見した。
一帯に見られる平均的な岩の4倍の大きさがあるすり減ったハンマーと、さらにハンマーの4倍の大きさがある凹みのついた台石は、現代のオマキザルが使っ
ているものと形状が一致する。化学的な検査からは、比較的新しいものにはまだカシューの皮のかけらが付着していることが明らかになった。これは石器がその
昔、空腹のオマキザルによって使われたものであることを強く示唆している。
また石器が発見された場所の周辺では、先住民や植民者が活動した痕跡は一切見つからなかった。セラ・ダ・カピバラ国立公園は世界遺産であり、ブラジルで
も特に重要な人類の遺跡があることを考えると、人間の活動の跡が見られなかったのはやや意外だ。もちろん、オマキザルはヨーロッパ人の影響も受けていな
い。オマキザルの石器で最も古いものは1266年に遡る。コロンブスがアメリカ大陸に到着する200年以上も前だ。
「捕まったものが逃げ出し、少なくとも人から何かしらの影響を受けたために、オマキザルが道具の使用を学習したと多くの人がこれまで考えていました」。論
文の共著者であり、ブラジルのサンパウロ大学でオマキザルの研究をするエドゥアルド・オットーニ氏は言う。「今回の発見で、道具の使用をオマキザルが少な
くともヨーロッパ人から学んだのではないことは断言できます」
ブラジルには、セラ・ダ・カピバラの他にも、道具を使うオマキザルがすむ場所がある。それぞれの集団には、道具を使用する際に見せる独特のクセがあり、これはある意味、彼らが独自の文化を形成しているとも言える。
たとえばセラ・ダ・カピバラのオマキザルは、生のカシューの実の殻を砕くが、より南に位置するファゼンダ・ボア・ビスタのオマキザルは、カシューよりも
大きなヤシの実、あるいは生ではなく古いカシューの実を石で叩く方を好む。またセラ・ダ・カピバラのオマキザルは、ときには棒を使って食べ物を探したり、
石で地面を掘ったりすることもあるが、一方のファゼンダ・ボア・ビスタで棒を使っているところはまだ目撃されていない。
オットーニ氏は、集団に特有のクセは世代から世代へと社会的に受け継がれ、文化として形成されていくのではないかと推測している。
「今回見つかった証拠のすべてが、これらが社会的な情報に基づく文化的な行動であるという考え方を後押ししています。オマキザルにも、人間と同じような差異があるのです。ちょうど、人間がある食材を調理する際、地域ごとに別のやり方を用いるのと同じように」
とはいえ、オマキザルの学習にとって社会的な要素が必須だとしても、文化が形成されるには長い時間がかかることに注意すべきであると専門家は指摘する。
また、同じ環境にいる個々のオマキザルが、社会的な交流を経ることなく、木の実を割る同じ技術を持つに至ることもあり得るだろう。
「カシューの実を割るというのは比較的単純な課題であり、それを解決する比較的単純な方法が存在します」と米ジョージア大学の霊長類学者で道具使用の専門家であるドロシー・フラゲイジー氏は言う。「それは保守主義とも呼べますし、効率を優先したやり方だとも言えます」