世界初「メンデルの法則」謎100年ぶり解明 奈良先端大、遺伝子の優劣決定因子を発見…食物増産に期待
(1/2ページ)【ベテラン記者コラム】PR
自家不和合性遺伝子(SP11)間の優劣関係のモデル図(左)。より優性のSP11遺伝子付近から作られる低分子RNAは自分よりも劣性側のSP11遺伝子の発現調節領域を標的とする。例えば両親からS1型とS2型のSP11遺伝子を受け継いだ場合、S1型(優性)の低分子RNAがS2型(劣性)のSP11遺伝子の発現調節領域を メチル化し(M)、遺伝子の働きを抑制する(右上)。S2型とS3型のSP11遺伝子を受け継いだ場合は、S2型の低分子RNAがS3型(さらに劣性)のSP11遺伝子の働きを抑制する(右下)=奈良先端大提供
生物の遺伝の仕組みでは、子供が父親と母親から一組ずつの遺伝子を受けとるが、そのうち特定の性質については、どちらか一方だけを表す場合もある。オーストリアの生物学者、グレゴリー・メンデル(1822年-1884年)がエンドウなど植物を交配する実験で示した「優性の法則」として知られる現象で、遺伝的な性質の表れ方が優性であれば、その性質を持つことになる。しかし、どのような仕組みにより、優劣関係が生じるのかは謎だった。
奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の和田七夕子(わだ・ゆうこ)助教、高山誠司客員教授(現東京大学大学院農学生命科学研究科教授)らの研究グループは、この「優性の法則」について、優性の遺伝子から作られる小さな分子(低分子RNA)が、劣性の遺伝子の働きを阻害するという新たな仕組みを世界で初めて発見した。このRNAを構成する遺伝子暗号(核酸塩基)の並び方が変わることで複雑な優劣関係が生み出されており、有用な遺伝子を働かせたり、有害な遺伝子の働きを抑えたりする技術へと結びつく可能性があり、植物育種への応用が期待できる。この成果は英科学誌「ネイチャー」の植物専門オンライン姉妹誌「ネイチャー・プランツ」に掲載された。
研究グループは、アブラナ科植物のナタネを材料に実験。自己の花粉では受精できない自家不和合性を調節する働きがある遺伝子(SP11)について、その仲間の4種類の遺伝子には4段階の優劣関係があることに着目した。
まず、その遺伝子の周辺のDNAから、低分子のRNAが作られることを発見。次いで、その性質を4種類の遺伝子について調べたところ、優性側の遺伝子から作られるRNAは、他方の劣性側の遺伝子の発現を調節する領域にのみ類似した塩基配列になっており、その領域の働きにカギをかけるように抑制し、阻害していた。さらに、このRNAは、劣性遺伝子側にのみ働き、自己より優性な遺伝子には作用せず、4段階の優劣関係を形成していた。
優性の法則に関わる遺伝子をめぐっては、約100年前にイギリスの遺伝学者、ロナルド・フィッシャーにより、どちらが優れた表現能力を持つかを制御する因子が進化してきた可能性があるとの仮説が提唱され、激しい論争になった。しかし、優性遺伝子に対し劣性遺伝子は機能を失うという説が広く支持されて、因子の存在自体が疑問視されていた。今回の研究で、この因子が低分子RNAであることを証明したことになる。
研究グループは「遺伝子が低分子RNAを獲得し優性遺伝子となっていく道筋が明らかになりました。この仕組みは、動植物に広く存在する可能性があります。また、この成果を応用することで遺伝子の働きを人為的に調節できるようになるため、有用な遺伝子を働かせ、有害な遺伝子の働きを止めるなど、新たな植物育種技術としての発展も期待できます」としている。