次世代ロケットH3、主エンジン燃焼試験始まる 欧アリアンや米スペースXにコストで挑む
(1/3ページ)PR
次世代ロケットの心臓部
次世代大型ロケットH3の心臓部である第1段エンジン「LE9」の燃焼試験が始まった。従来の開発思想を転換し、低コスト化を重視した設計が特徴だ。大型ロケットの開発競争が世界的に進む中、独自の技術を武器に市場に挑む。(草下健夫)
開発は山場へ
H3は現行のH2Aロケットの後継機で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が2020年度の打ち上げを目指して開発を進めている。運用開始から16年が経過したH2Aは人工衛星の大型化で能力不足になっており、打ち上げ費用も約100億円と高額で国際競争力が低下。このためH3では高性能化と費用半額が目標だ。
第1段のLE9は打ち上げから約5分間、機体を上昇させる主エンジンだ。推力は約3割アップし国内最大で、衛星の大きさに応じて2~3基を搭載する。今年4月から種子島宇宙センター(鹿児島県)で燃焼試験が始まり、今月12日に初期段階の試験を終えた。
開発を統括するJAXAの沖田耕一ファンクションマネージャは「始動や停止などの基本動作を確認し、必要なデータを取得できた」と胸をなで下ろす。秋以降は性能や寿命、製造費などを見極めるための燃焼試験を行い、開発は山場を迎える。
日本独自の新方式
H2Aの第1段エンジンは米スペースシャトルと同じ高効率の「2段燃焼式」だが、LE9では日本が独自に開発した「エキスパンダーブリード式」を採用する。H2Aの第2段エンジンで実績のある方式だ。
いずれの方式も、燃料の液体水素と液体酸素をポンプで加圧して燃焼室に送り、発生した燃焼ガスを噴射ノズルから出して推進力を得る基本構造は同じだが、新方式は仕組みを大幅に簡素化した。
従来は水素をまず副燃焼室で燃やし、そのガスでポンプを駆動させた後、燃焼室に送って2段階で燃やしていた。燃料を無駄なく使うため燃費は良いが、制御は複雑だ。
これに対し新方式は、燃焼室の熱で膨張(エキスパンド)させた水素でポンプを動かす。副燃焼室が不要になり部品数が2割以上減るため、コスト削減と信頼性向上につながり、異常時に爆発する恐れも大幅に低下する。
また、ポンプを動かすのに使った水素は燃焼室に送らず、噴射ノズルから流出(ブリード)させる。燃費を約3%犠牲にする代わりに、制御が簡単になるのが利点だ。
激化する国際競争
日本の大型ロケットの主エンジンは1970年代に米国からの技術導入で始まり、独自技術と国産化を目指して歩んできた。
94年の純国産機H2から2段燃焼式を採用。種子島の発射場は近隣に民家があり、機体の大型化で爆発事故の被害が生じないようにするには、燃料が少量で済む高効率のエンジンが必要だったからだ。
しかしH2は99年に主エンジンの破損で打ち上げに失敗し、打ち切られた。後継のH2Aでは配管の工夫や溶接部分の削減で信頼性を高め、計34回の打ち上げでエンジンが原因の事故は起きていないが、コストをいかに抑えるかが大きな課題になってきた。
ロケットの低コスト化は世界的な流れだが、その手法はさまざまだ。次世代機では欧州がアリアン6の製造体制を刷新し、ロシアは複数の機種で機体の共通化を進めている。低価格を武器に市場シェアを伸ばす米国のファルコン9は機体の再使用に成功し、さらに価格を下げるという。
2020年代には各国の次世代機が登場し、衛星の打ち上げ業務を民間などから受注する商業打ち上げビジネスの競争が激化するのは必至だ。JAXAの森有司計画マネージャは「第1段の開発思想を高性能から低コストへ大転換したのは生き残りのためだ」と明かす。
国産ロケットはH3で大型衛星を運ぶパワーと低コストを両立し、国際市場で受注を拡大できるのか。LE9の開発の成否がその鍵を握る。