米中横目に巨大貿易圏 TPP11・日欧EPA発効へ
世界経済の4割弱 企業、商機見越し着々

2018/12/30付日本経済新聞 朝刊
米国を除く11カ国の環太平洋経済連携協定「TPP11」が30日、発効した。来年2月1日には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効する。貿易戦争を繰り広げる米中を横目に、世界の国内総生産(GDP)の4割弱を占める巨大貿易圏が動き出す。保護主義の連鎖を防ぐ試金石となる。(関連記事総合・政治、総合・経済面に)
TPP11は日本を除く10カ国が最終的にほぼ全ての関税をなくす。日本も工業製品の100%、農林水産品の82.3%の関税を最終的に撤廃する。日欧EPAでも日本側が94%の品目で、EU側が99%の品目で、それぞれ関税を撤廃する。

関税2200億円減少
効果は大きい。国際貿易投資研究所の高橋俊樹研究主幹によると、日本からの輸出にかかる関税は、カナダやオーストラリアなどの5カ国だけで1年目に約20億ドル(約2200億円)減る。他の10カ国からの輸入にかかる関税についても1年目だけで約10億ドル減ると試算する。
企業は商機をにらみすでに走り出している。
豪州やニュージーランドから輸入する牛肉は最大38.5%の関税が段階的に下がり16年目には9%になる。イオンリテールは発効に先立つ12月上旬、豪州タスマニアビーフの人気商品の価格を100グラムあたり20~130円程度下げた。
サントリーワインインターナショナルは日欧EPAが発効する2月1日の出荷分から、69品目のワインを値下げする。出荷価格ベースで1~11%程度、20~140円の引き下げになる。
伊藤忠商事は今春、ベトナムの国営繊維大手「ビナテックス」に約50億円を追加出資し、ベトナム政府に次ぐ大株主となった。狙いは海外輸出だ。例えばカナダに1万円のコートを輸出する場合、20%弱だった関税がゼロになる。販売価格の低減や利幅の確保などビジネスの優位性は増す。21年までに輸出額を1.5倍の1千億円に増やす。
カナダへの乗用車輸出も関税が6.1%から30日に5.5%に下がり、段階的にゼロになる。日本のメーカー各社は部品輸出も含め競争力向上につながると期待する。
一方、TPP11などに加盟しない米中には打撃となる。
07年に日本とチリのEPAが発効した際にはチリ産ワインの人気が高まり、15年にフランス産を抜いて首位になった。07年に米国産とチリ産ワインの輸入量は1万キロリットル前後でほぼ同じだったが、17年には8倍の開きが生じた。自由貿易圏が拡大すれば、牛肉などでも米国産の競争力は落ちる。
アパレルの分野では、縫製工場だけでなく糸や布地など原材料の生産拠点を中国からベトナムなどに移転する動きが広がる。TPP11の減税措置を受けるには加盟国で生産した糸などを使う必要があるためだ。
TPP創設の動きは、いずれ経済規模で米国を抜くとされる中国に対抗できる経済圏を作り、中国の市場開放へ向けた包囲網を築く狙いがあった。仮に米国がTPP11などの自由貿易圏に入れば、世界のGDPの6割を占める。
だが17年にトランプ米大統領が離脱を表明。日本が主導して11カ国の協定発効にこぎつけた。TPP11にはタイやインドネシア、英国も参加を検討している。自由貿易圏が経済成長を加速することを示せれば、参加国をさらに広げることが可能になる。
米国の焦り誘う
日本が02年に初めてシンガポールと結んだEPA発効から16年。政府はTPP11と日欧EPAによる日本のGDPの押し上げ効果をそれぞれ約7.8兆円、約5.2兆円と試算する。茂木敏充経済財政・再生相は「日本の新たな成長エンジンだ」と強調する。
日本にとっては年明けに始まる米国との物品貿易協定(TAG)交渉にも意味を持つ。政府は米国内の焦りを誘い、農業関税は「TPPや日欧EPAで認めた水準」という日本が妥協できる範囲での早期決着を狙う。
野村総合研究所の木内登英氏は「TPP11発効と加盟国拡大が保護主義の防波堤になる。米国を自由貿易に引き戻すテコにもなりえる」と話す。中長期的に米国に翻意を促し、中国にも一段の市場開放を促せるか。TPP11と日欧EPAの行方がカギを握る。
(飛田臨太郎、大平祐嗣)