アトキンソンサイクル、もしくはミラーサイクルエンジンとは何か?
圧縮比を高めず膨張比だけを高めたエンジン
エンジンはピストンが上下に動くことによって、そのシリンダーの容積を変化させます。ピストンを上昇させて吸い込んだ空気を圧縮し、燃焼させた時のエネルギーによってピストンを押し下げます。それぞれ圧縮比、膨張比と呼びますが、普通のエンジンでは圧縮比と膨張比はイコールなんです。
ところが高効率を狙おうとすると、もっと膨張比が欲しくなるのです。普通に考えると圧縮比を高めればいいわけですが、しかし圧縮比を高くしていくとガソリンエンジンではノッキングが発生してしまいます。つまり、普通のエンジンではノッキングが発生しない上限で、圧縮比を決めているのです。
では圧縮比を高めないで、膨張比だけを高める方法はないのでしょうか? それを実現したのがミラーサイクルエンジン、あるいはアトキンソンサイクルと呼ばれるものです。
圧縮比よりも膨張比を大きくする方法は、いくつか生れました。Nissanの可変圧縮比エンジンのようなコンロッドにリンクを介する方法が、機械的に実現するひとつの方法でした。実際に現在、ホンダが発電用エンジンにそうしたサブコンロッドを使った機構を採用してアトキンソンサイクルとしています。
その後、吸気系のなかにロータリーバルブを組み込んで吸気量を制限することで、見た目の圧縮比を低くする方法もありました。これはMazdaがEunos800/Millenia(1993年)で登場させたミラーサイクルの手法です。
アトキンソンサイクルが大々的に登場したのは、初代Toyota Prius(1997年)です。吸気バルブのタイミングをずらすことで吸気量を少なくすることで、実際の圧縮比を低くする手法です。そのためエンジンの構造は通常のものと変わらず、ノーマルエンジンのカムシャフトとピストンを変更しただけのローコストなものでした。同じ排気量でも、吸気量が少ないので、パワーもトルクも出ません。
またアイドリングに近い低回転も、4000rpmを超えるような高回転も、苦手です。ハイブリッドシステムの発電・駆動用エンジンで、発進・低速ではモーターが主役ですね。そのためパワーが少ないアトキンソンサイクルが採用できたわけです。
現在は可変バルブタイミング機構を使って、アトキンソンサイクルと通常のサイクルを切り換えることができるようになっています。そのためハイブリッド用ではなく、普通のモデルでもアトキンソンサイクルが採用されています。
吸気バルブのタイミングを、通常よりも早く閉じて吸気を制限するか、遅く閉じて一度シリンダーに入った吸気を押し戻すか、いずれかの方法によってアトキンソンサイクルを成立させています。パワーが必要になれば、通常のモードに切り換えるわけです。
アトキンソンサイクルは、燃焼エネルギーの回収率を高めるシステムです。燃焼そのものは基本的に変わりません。だからパワーモードへの切り換えもスムースで問題は出ませんが、燃焼そのものを切り換えるとなると大きな問題点がたくさん出てくることになります。
https://www.webcartop.jp/2018/01/189318/
(一部加筆)
なお、2019年に登場したHyundaiのCVVDも同じ原理のエンジンです。
VVTを吸気側に搭載し、バルブを閉じるタイミングを遅らせることで膨張比を稼いでアトキンソンサイクル化しています。
特徴としては、既存のVVTだと特許に抵触するために、カムシャフトの回転中心を移動させる手法をとっています。
ただ、この手法だとどうしても機構が大きなスペースを必要としてしまい、吸気側にしか搭載ができません。
VTEC(Honda)やVVT-i(Toyota)、MIVEC(Mitsubishi)のようにバルブリフト量を調整することも不可能です。
なお、オットーサイクルとアトキンソンサイクルの切り替えができるエンジンとしては2005年のHondaのR18Aが最初だったと思います。