妹の与正を「後継指名」
4月になって、金正恩委員長の「動画」が最後に報じられたのは、4月11日に行われたという朝せん労働党政治局会議の模様が、翌日に短く公開されたものだ。音声はないが、中央に鎮座した金正恩委員長が、何やら勇ましく部下たちに説いている。
私は、この朝せん労働党政治局会議について取材する中で、一つだけ重要な金正恩委員長の「肉声」を伝え聞くことができた。それは、以下のようなものだ。
「わが共和国の最高指導者というものは、特別な人格的資質を備えていなければならない。それは、(朝せん労働)党のエリートと人民大衆の双方から受け入れられるということだ。それにはもちろん、『白頭の血統』(金正恩ファミリーの意)という必要もある。
そうしたことを考え合わせた場合、今後、私の身にもしも何かが起こった場合、(金)与正が、わが共和国を統治していくものとする」
こうして、金正恩委員長の妹である32歳の金与正(キム・ヨジョン)が、「後継指名」されたという。
gettyimages金与正は、2017年10月に、兄の正恩委員長を側で補佐すべく、党中央委員会政治局員候補に選出された。だが、昨年2月の「ハノイの決裂」と呼ばれた、トランプ大統領と金正恩委員長の2回目の米朝首脳会談の責任を取らされ、政治局員候補から外された。
ところが、昨年末に開かれた朝せん労働党全員会議で、党第一副部長に昇格。さらにこの4月11日の朝せん労働党製辱会議で、再び政治局員候補に返り咲いたのである。事実上のナンバー2に再び返り咲いたと言ってよい。逆に言えば、金正恩にとっては、か弱い妹しか、周囲に信頼が置ける「部下」がいなかったのである。
この重要会議の翌日、4月12日に、最高人民会議(国会)が開かれたのだった。当初は、4月10日に開くとしていたが、2日遅れた理由は不明だった。それは、金正恩委員長にとって、早急に「与正後継」を決め、かつ最高幹部たちを説得する時間が必要だったためかもしれない。
最高人民会議には、金正恩委員長は出席していない。また、何かの重要発表も行っていないが、人事に特筆すべきものがあった。金正恩委員長を除く13人の国務委員のうち、5人が入れ替わったのだ。脱落したのは、李洙墉(リ・スヨン)党副委員長や李容浩(リ・ヨンホ)前外相らである。昇格組は、李善権(リ・ソングォン)外相や金正官(キム・ジョングァン)人民武力相らである。これらは、「与正人事」だったのかもしれない。
そして、3日後の4月15日の「太陽節」、金正恩委員長は前述のように、錦繍山太陽宮殿の参拝も欠席したのである。
この直後から、他にも平壌で「異変」が起こり始めていた。前出の外交官が証言する。
「朝せん人民軍のヘリコプターが毎日、平壌の上空を頻繁に低空飛行するようになったのだ。首都で不穏な動きが見られないか、偵察飛行しているのだ。
それから、市内の警備が突然、厳重になった。特に厳重な警備が行われているのが、平壌駅周辺で、平壌駅は封鎖に近い状態に置かれている。平壌と妙香山(ミョヒャンサン)を結ぶ列車は突如、運休になった」
思えば、祖父の金日成主席、父親の金正日総書記も、「突然死」している