プロスポーツチーム売買価格、急上昇のワケ エンゼルスの年平均成長率は15% 需要過多で価格押し上げ
【小林至教授のスポーツ経営学講義】 米大リーグのロサンゼルス・エンゼルスの売却価格が3500億円を超えそうだと報じられている。実現すれば買値258億円の14倍、年平均成長率15%だ。年利15%がどれだけすごいかって、米国史上最大の金融詐欺事件(7兆円超)を起こしたバーニー・マドフ(懲役150年の服役中に2021年死去)が、投資家に約束した年率が10%である。 ちなみに、マドフに騙された1人がニューヨーク・メッツの前オーナー、フレッド・ウィルポン。財政難に陥り選手年俸を削るなどチームへの投資を怠り低迷した末、2020年9月にヘッジ・ファンドで財を成したスティーブ・コーエンに売却した。コーエンは大補強を施し、今季2年目にして優勝争いをするチームを作り上げた。新オーナーになった場合のエンゼルスにも、同じことが起こるかもしれない。 それにしても、プロスポーツチームの売買価格は留まることなく、値上がりが続いている。先のメッツは02年の547億円が3360億円に。史上最高額はウォルマートの創業家が今年買収した米フットボールNFLのデンバー・ブロンコスで、その額6440億円である。 理由はまず、プロスポーツチームの資産価値が大きく伸長したことがある。たとえばMLB球団の年間売り上げは、01年の167億円から21年の450億円と3倍近くになった。次に大金持ちの数が劇的に増えたことが挙げられる。個人資産10億ドルを超える富裕者をビリオネアというが、その数は01年が538人、いまは2668人と5倍増である。世界級のプロスポーツチームのオーナーという、このうえない栄誉を欲する数は増えたがその対象は限られる。需要過多の状況が、価格を押し上げているのだ。 そしてもうひとつ、これは米国に限ったことだが税制優遇がある。米プロスポーツチームが公設球場を廉価で占有できる(エンゼルスもそのひとつ)ことについては、米国民の間でも賛否はあるものの、プロスポーツが文化として根付いていることを象徴するエピソードではある。 それに加えて、買収価格を丸々、減価償却できる税制優遇が与えられているのだ。 日本の企業買収において減価償却が認められるのは、買収価格から純資産額を引いた「のれん代」のみである。米国では償却は認められておらず、資産計上したうえで業績に連動した評価が毎年行われる。ところがプロスポーツチームに限っては、買収価格をすべて15年にわたって償却できるのだ。 これがどれほどオイシイかというと、仮に1500億円で買収をしたとして、毎年100億円を損金算入できる。償却前の営業利益が100億円とすると40億円の法人税を支払う必要があるが、これがゼロになるのだ。さらに、償却額が営業利益を上回った場合はオーナー個人の損失として申告することが可能だ。 米国は日本のような源泉徴収がなく誰もが確定申告をするため、日本よりも税への意識が高い。その米国でプロスポーツチームがなぜ、こんな特別扱いを受けられるのかというと、04年に本制度が導入される以前のルールの「欠陥」を矯正するためだった。 以前のルールでは、買収時の選手の総契約額の半分を5年にわたって償却できた。選手の契約額は費用としても計上されるため、ダブルカウントとなる。これが法的にマズイというのがひとつ。もうひとつは従前のルールでは償却期間を過ぎると、売却する動機が高まるからだという。以前のそれもいまのそれも「こんなのありかいな」という気がするものの、米国におけるプロスポーツのプレゼンスの高さが分かる話ではある。