「自壊する中国」と「躍進するインド」…自動車産業で「明暗」が分かれたワケ
長らく自動車生産台数世界一の地位にある中国と、日本に次ぐ生産台数のインド。両国ともに電気自動車関連の政策に力を入れているが、その様相は異なると第一生命経済研究所の主席エコノミスト・西濱徹氏は『インドは中国を超えるのか』(ワニブックス刊)にて解説している。
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自動車生産台数はGDP順位に近い
中国とインドの両国がしのぎを削る分野に、自動車産業があります。中国の自動車生産台数は2008年に米国を追い越して世界第1位となり、その後も一貫して世界一の地位を維持する展開が続いています。
一方、インドの自動車生産台数は2000年時点では世界第15位に留まりましたが、その後の経済成長も追い風に順位も大きく上げています。2008年には世界第10位と10傑入りし、2016年には韓国を抜いて世界第5位に、2018年にはドイツを抜いて世界第4位入りを果たしました。しかし、2020年にはコロナ禍に際してインドは世界的な感染拡大の中心地となるとともに、経済活動の停滞を余儀なくされたことで一旦は順位を落としましたが、2022年に再び世界第4位に返り咲きを果たしています。
ちなみに、2023年における生産台数の多い国を順に並べると、中国(3016万台)、米国(1061万台)、日本(900万台)、インド(585万台)となっており、GDPの規模に近い並びになっていることがわかります。そして、販売台数ではインドはすでに日本を追い越して世界第3位となっています。
よって、新興国を中心とする高い経済成長が中国とインドの自動車産業の追い風になっているといえます。
2008年には生産台数世界一となった中国
中国の自動車産業を巡っては、元々は改革開放路線の下で国有企業と外資企業との合弁事業が活発化されたことにより、海外の技術と資本を引き受けることが発展のきっかけとなりました。
さらに、2001年のWTO加盟により関税が引き下げられたことに加え、中国国内における競争激化の動きも追い風に販売台数が拡大したことが生産を押し上げるとともに、2008年には世界最大の自動車生産国となりました。そして、習近平指導部の下で進められている「製造業強国」に向けた取り組みのなかでは、自動車産業として電気自動車に関連する技術や先進運転支援システム(ADAS)といった分野への重点化が図られています。
電気自動車についてはエンジン(内燃機関)車に比べて必要とされる部品点数が大幅に少ないこともあり、その参入障壁が比較的低いとされています。先述したように中国の自動車メーカーは元々国有企業と外資企業の合弁企業が多くを占めていたものの、こうした事情も影響して中国国内で他業種からの参入の動きが活発化するとともに、競争が激化する動きもみられました。
価格競争と需要減で厳しさを増す
そして、習近平指導部が主導する産業政策を追い風とした補助金をはじめとするインセンティブ付与に加え、雇用創出を期待する地方政府も補助金などのインセンティブを付与する動きをみせてきたため、結果として中国国内には多数の自動車メーカーが誕生するとともに、生産能力の過剰が懸念される状況に陥っています。
このところの中国経済を巡っては、コロナ禍に際して習近平指導部が長きに亘って「ゼロコロナ」に拘泥する戦略を維持したことに加え、そのことが尾を引く形で経済活動の正常化が図られた後も若年層を中心とする雇用回復が遅れる展開が続いています。この結果、自動車を最も需要することが期待される若年層の間で自動車に対する需要が高まりにくくなっており、需要を喚起する観点から当局は補助金や減税などのインセンティブを付与せざるを得なくなっているほか、メーカーも価格競争に追い込まれる展開が続いています。
製品価格が低く抑えられている背景には、部材や素材の生産を巡って強制労働を疑問視する向きもみられます。こうしたことに加え、ここ数年の米中摩擦により米国は中国からの電気自動車の輸入に高関税を課しているほか、電気自動車を推進してきたEU(欧州連合)も自動車メーカー別に電気自動車の輸入に関税を課す動きが広がりをみせています。
インドの自動車産業に貢献したスズキ
一方、インドの自動車産業を巡っては、長らく社会主義に基づく混合経済体制に加え、インド企業に対する保護主義的な政策が採られてきたことで外資企業の撤退が相次いだ結果、国産メーカーによる寡占構造が続いてきました。
しかし、1981年にインド政府とスズキが合弁会社であるマルチを設立したことが転機となるとともに、投資規制が緩和されるなど保護主義政策が徐々に解除されました。さらに、1991年の経済自由化を受けて外資企業による参入規制も緩和されるなど自動車産業を取り巻く環境も大幅な変化を余儀なくされました。
なお、現在においてもマルチ・スズキ・インディアのシェアは半分近くを占めるなど圧倒的な存在感を示しており、日本の自動車メーカーであるスズキがインドの自動車産業に果たしてきた役割は極めて大きいことがわかります。
ただし、近年のインドにおいては大都市部を中心に深刻な大気汚染問題が顕在化しており、その背景には自動車の爆発的な普及による排気ガスの急拡大が影響しているとされます。そうしたなか、インドにおいても電気自動車を推進する動きが活発化しており、インド政府は2030年までに商用車の7割、自家用車の3割、二輪車と三輪車の8割を電気自動車にする目標を掲げています。
この背景には、大気汚染問題への対応が喫緊の課題となっていることに加え、コロナ禍を機にモディ政権が掲げた「自立したインド(Self Reliant India)」というスローガンの下で輸入依存の低減を通じた経済安全保障の確保やグローバルサプライチェーンにおけるインドの生産・輸出拠点としての地位向上を図るという産業政策も追い風になっています。加えて、インド政府は2047年までにエネルギー分野の自立を実現すべく、再生可能エネルギーの導入・拡大による国際競争力の向上を図る目標を掲げており、電気自動車の普及はそうした動きを側面から支援することが期待されています。
その実現に向けて、モディ政権はメイク・イン・インディアを下支えする一環として、国内生産の促進を目的とするPLIの対象分野として電気自動車や自動車部品関連としてリチウムイオン電池などを指定しており、これらの生産に必要な原材料や部品、製造機械などに対する輸入関税を免除するとともに、国産化を後押ししています。