「出光丸」ホルムズ通過にざわつく韓国、背景にK-カルチャー支える「出前」と「カフェ」のプラスチック依存
韓国では原油の調達難への不安が高まっている(写真:AP/アフロ)
日本のタンカー「出光丸」が4月28日、ホルムズ海峡を通過した。韓国でも関連報道が相次いだ。
日本のタンカーが通過したといっても、わずか1隻のみ。いまだにペルシャ湾には約40隻の日本船が残されており、それらがすぐに海峡を通過できるようになるとは考えにくい。
それにもかかわらず、韓国では蜂の巣をつついたかのように大いにざわついた。
韓国は原油の輸入に占めるホルムズ海峡経由の割合が約70%と高い。アメリカがイランへの攻撃を開始した当初から、原油の調達が滞ることによる経済への大きな打撃が予想されていた。
こうした状況での出光丸の海峡通過を受け、韓国の文化日報は「韓国の船舶26隻が依然として海峡内にとどまっている」としたうえで、「イランに特使を派遣したにもかかわらず、これといった成果を引き出せなかった」と、政府に対する批判的論調の記事を掲載した。
韓国メディアが大きく取り上げたのは、一つは、日本船籍のタンカーによる「ホルムズ海峡通過」、そしてもう一つが、イラン側の求める通行料を「支払っていない」という点だ。
高市首相率いる日本がイランを説得できたというのは、韓国社会にとっては衝撃的だった。しかも現在のところ、韓国の船舶については、通過の目途が立ったという報道はない。出光丸が通過した翌日の4月29日には、韓国の外交筋のコメントが報道されたが、イラン政府に韓国船を通してもらえるよう「方案を模索中」だと述べるにとどまった。
それにしても、なぜそれほどまでに大ショックだったのか。
韓国の「プラスチック文化」を象徴する出前とカフェ
その最も大きな要因は、石油の備蓄量に対する不安だ。3月中旬時点で韓国の備蓄量は208日で、日本の254日分より少ない。
それでも、公式発表では7カ月分の原油を備蓄していることになるのだが、現在の石油製品の使用状況を考慮すると、わずか2カ月で枯渇するとメディアが大々的に報じたことで、社会不安が一気に膨れ上がった。
なかでも問題視されているのが、ナフサの不足である。韓国社会に浸透している「出前」と「カフェ」文化が、ナフサを原料とするプラスチック製品によって支えられているからだ。
韓国は文在寅(ムン・ジェイン)大統領以降、K-カルチャーを文化政策のキーワードとしている。K-カルチャーにはK-POPや韓国映画のほかに、韓国で世代を超えて庶民に定着している出前とカフェの文化も含まれる。
韓国の出前は、住宅や会社に限られず、ピクニックをするような住所のない野原の真ん中にも配達してもらえる。そのため、出前では返却が必要な食器が避けられ、使い捨てのプラスチック容器が用いられる。
また、カフェでのイートインでは、日本ならコーヒーカップやグラスが使用されるが、韓国では、冷たい飲み物についてはプラスチックコップで提供する店舗が圧倒的に多い。
大学では学食を避けて出前を頼む学生は少なくない。出前を受け取れば、容器も、それを包装する袋もプラスチック製だ。学内にあるカフェでも、プラスチック容器が次々に消費されている。若者の間では、冬でもホットよりアイスでの注文が人気だからだ。それどころか、葬式で提供される食事でも、プラスチック容器が使用されている。
韓国は文在寅政権以降、すでに10年近くにわたり環境立国を標榜してきた。そのため、リサイクルもそれなりに進んでいるのだが、その一方で、プラスチック容器の使用に歯止めがかからない。
こうした矛盾が生じているのは、国民の意識や企業文化の問題だと言える。この数カ月、ナフサ不足が懸念されるようになって、ようやく、そうした使い捨て文化を問題視する報道が出始めた。また、李在明(イ・ジェミョン)大統領は懸念されるナフサ不足に対し、4年後の2030年までに、使い捨てのプラスチック容器の使用量を30%減らすという目標を打ち出した。
そんななか飛び込んできたのが、出光丸によるホルムズ海峡通過のニュースである。
「日章丸事件」には関心なし
出光丸がホルムズ海峡を通過できた要因は一つではないが、大きな背景として語られているのが、1953年の日章丸事件である。
イランの石油は、かつて、イギリス資本の管理下に置かれていたが、イラン政府は1951年に石油の国有化を宣言。イギリスはこれに反発して海上封鎖を行い、経済制裁を課した。だが、出光興産創業者の出光佐三はそれを不当とみなし、海上封鎖の裏をかき、日章丸を派遣して、日本に石油を輸入した。
だが、韓国ではこの事件について報じるメディアは多くはない。筆者はウェブで検索をかけてみたが、日章丸事件に言及している記事は数えるほどしかなかった。
つまり、出光丸の海峡通過の背景については、韓国社会ではほとんど関心がないようだ。「日本の船が通過した」という事実だけに、ヒステリックに反応していると言える。それは、原油・ナフサ確保に対する焦りからくるものだが、日々の生活が脅かされることへの不安が日本以上にあるのだろうと感じる。その不安に拍車をかけているのが、出前やカフェにおける過度のプラスチック依存だ。
原油やナフサの調達難が長期化すれば、韓国庶民の生活スタイルは大きく変わらざるをえないだろう。その過程では、社会不安や政治への不満も噴き出すだろうが、韓国が本気でナフサ不足を克服しようとするのなら、「環境国家」を掲げたついでに、脱プラスチックを是非とも進めてほしいものだ。