トランプ戦争の次の標的はキューバ? アメリカの「対キューバ作戦」の合法性と実現可能性
5/27(水) 7:50
30年前の事件について米司法当局に起訴されたラウル・カストロを待つのはマドゥロと同じ運命(かも)
米司法省はキューバ独立記念日の5月20日、キューバのラウル・カストロ元国家評議会議長(94)を殺人罪などでフロリダ州の大陪審が起訴したと発表した。これを受け、ドナルド・トランプ米大統領が、ベネズエラのニコラス・マドゥロ前大統領にしたのと同じことをカストロにもするのではないかという臆測が高まっている。 かねてから反米的な政策を取ってきたマドゥロは2020年(第1次トランプ政権のときだ)、「麻薬テロリズム」の容疑で米司法当局に起訴された。そして、それを理由に今年1月上旬、米軍の特殊部隊の急襲を受けて逮捕され、米本土に移送され、現在裁判を待っている。 一方、カストロは08年に兄フィデルの後継者として権力を握ったが、これに先立ち国防相を務めていた1996年に、キューバ軍がアメリカの民間機2機(キューバの反体制派活動家らを乗せていた)を撃墜し、4人が死亡。カストロは今回、この事件に関連して起訴された。 60年代にフィデルの下で共産主義になって以来ずっと、キューバとアメリカの関係は悪かったが、ここ数カ月は一段と緊張が高まっていた。ベネズエラ産の石油を頼りにしていたキューバは、アメリカによる事実上の海上封鎖を受けエネルギー危機に陥った。 アメリカはキューバに統治システムの改革などを迫り、アメリカとの取引に応じなければ武力行使に訴える可能性も示唆してきた。トランプ自身が、「次はキューバだ」と発言したこともある。
キューバも現体制の改革を断固拒否
トランプは2月末、イスラエルと共にイランに対する軍事行動を開始し、イランの最高指導者アリ・ハメネイを殺害した。ただ、この作戦はベネズエラのように短期で終わらず、幕引きへの交渉が難航して、膠着状態に陥っている。 ベネズエラ、イラン、そしてキューバのいずれのケースでも、「武力行使の脅しがエスカレートし、軍備の配置がエスカレートし、威圧や脅しの言葉、さらには造反を促すレトリックがエスカレートした」と、英王立国際問題研究所の中南米担当シニアフェロー、クリストファー・サバティーニは語る。「そうすれば相手の態度は変わるだろうという期待があった。これは交渉戦略とは違う」 だが、ベネズエラやイランと同じように、キューバも頑固だ。アメリカとの対話に前向きな姿勢を示しつつ、現体制の改革を断固拒否している。このままでは、事態がさらにエスカレートするだけだと、サバティーニは警告する。「脅しや武力行使の威嚇に効果がなければ、(アメリカが)何らかの行動に踏み切るのは避けられない」 専門家は以前から、カストロの起訴はキューバに対する軍事行動の序章になる可能性があると指摘していた。 実際、起訴が発表された日、キューバ系移民の両親を持つマルコ・ルビオ米国務長官はキューバ国民に向けて、現体制に対して立ち上がるようスペイン語で呼びかける5分間の動画を発表。経済難の責任は現政府にあるとして、アメリカと「新たな関係」を築くことを促した。 トランプ自身も同日、直ちに軍事行動を起こす考えはないとし、こう記者団に語った。「(キューバの経済社会は)ひどい状況にある。(政府は)全く統治できていない」
全面侵攻には大きな代償
それでも、もしトランプがキューバに対する武力行使を決意した場合、対ベネズエラ型の特殊部隊を使った極めて限定的な作戦、対イラン型の圧倒的な空爆作戦、あるいは全面侵攻など、いくつかの選択肢があり得る。 ただ、キューバ軍の装備は時代遅れとはいえ、全面侵攻は大きな代償を伴うだろう。キューバは伝統的なゲリラ戦により非対称の戦いを展開する可能性があるし、アメリカの軍事資源は今、かなりの割合が中東に向けられている。 キューバのミゲル・ディアスカネル大統領は4月の本誌のインタビューで、アメリカが攻撃してきた場合、「反撃する」と断言し、自らの生命や自由が危険にさらされることも辞さない姿勢を示した。また、キューバの集団指導体制と、「一枚岩の団結、イデオロギー的な結束、そして革命の理念」への忠誠ゆえに、現体制を打倒する試みや、造反者を確保する試みは失敗に終わるだろうと語った。 サバティーニは、キューバの場合、ベネズエラのようにアメリカに協力し、将来的にもアメリカに融和的な政策を取るリーダーが体制内に現れる可能性に懐疑的だ。 「第1に、キューバは強い結束力を持つエリート層に支配されており、親米的な人物は見つからないだろう」と彼は言う。「第2に、そういう人物がいたとしても、長期にわたり(アメリカに)従順であり続けるとは思えない」 「第3に、キューバには企業部門がない。大きな意味での市民社会も基本的には存在しない」とサバティーニは続けた。「たとえ存在したとして、体制転換のプロセスを支える社会基盤すらない」
キューバの軍主導コングロマリット「ガエサ」とは
カストロを排除しても、現体制がほとんど揺らがない可能性もある。その大きな理由は、軍主導のコングロマリット「ガエサ」の存在だ。 「ガエサを経営することで非常に豊かな暮らしを築いた軍幹部は大勢いる。そしてガエサの経営には一定の自由裁量が認められている」とサバティーニは言う。「それを崩そうという人はなかなか現れないだろう」 他国に軍事行動を仕掛ける口実として刑事訴追を利用するトランプ政権の戦略に、法的な疑義も浮上している。 「ベネズエラでの作戦(および米政府がキューバで試みる可能性のある同様の作戦)は明らかに国際法の根本原則に違反している。正当な自衛か、国連安保理の承認がない限り、いかなる国も武力行使は認められない」と、ホワイトハウスで法務関連の要職を歴任し、現在は安全保障のオンラインフォーラム「ジャスト・セキュリティー」で共同編集長を務めるテス・ブリッジマンは本誌に語った。 「国連が(キューバ攻撃を)承認することはあり得ない。しかも、キューバはアメリカを攻撃しておらず、差し迫った脅威も存在しない。つまり、アメリカには自衛権を主張する根拠がない」 さらにブリッジマンは、この問題は大国による敵対行為から小国を守る国際秩序の核心に関わるとした上で、国内の刑事司法制度で相手国の要人を起訴したからといって、武力行使をめぐる原則が変わることはないと指摘した。「現職または元キューバ政府高官の起訴を根拠に侵攻し、被告の身柄を拘束しようとするなら、それは対キューバ武力行使という露骨な違法行為を覆い隠す煙幕にすぎない」
対キューバ作戦も合法性に疑問符
ブリッジマンによれば、仮に作戦が国際法で合法だとしても(実際には違う)、アメリカの国内法は大統領に議会の承認なしに戦争を始める権限を認めていない。「昨年6月のイラン、今年1月のベネズエラ、そして2月の再度のイラン侵攻はいずれも、露骨な合衆国憲法違反だ」 米国家安全保障会議(NSC)と国務省で中南米政策を担当し、現在はシンクタンクのスティムソン・センターで中南米プログラムの責任者を務めるベンジャミン・ゲダンも、カストロの起訴を理由とした軍事作戦の合法性に疑問を呈した。一方で、そうした法的な問題がトランプ政権の歯止めになるとは限らないとの見方も示している。 米特殊部隊デルタ・フォースは賞金目当てに犯罪者を追いかける組織ではないし、国際法であれ国内法であれ、起訴状を口実に、その人物を追って相手国に侵攻する権限がトランプにあったわけでもないと、ゲダンは本誌に語った。「だが、トランプはそれでもベネズエラに米軍を投入して指導者を拘束した」 一方、キューバ政府はカストロの起訴を非難するとともに、96年の民間機撃墜事件をめぐるアメリカ側の説明にも異議を唱えている。 「米政府には起訴を行う正当性も管轄権もない」とキューバ政府は声明で主張し、96年の事件を都合よく利用した卑劣な政治的挑発だと批判。また、撃墜された2機は「米マイアミを拠点とするテロ組織『ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー』の航空機」で、「敵対的な目的で領空侵犯を繰り返していたことは公然の事実だった」としている。 この組織を率いるホセ・バスルトは自分はキューバ政府に対する破壊工作に関与したCIA工作員だったと裁判で証言している。一方、米司法省は、キューバ政府が同組織に工作員を送り込み、2機を撃墜するための情報収集を行っていたとみている。
脅しには現実味があるかも?
米軍によるキューバ上空での偵察飛行は増えているが、今のところアメリカのキューバへの対応は経済的・法的・政治的な圧力が中心で、本格的な軍事力の投入には至っていない。ゲダンによれば、今回の起訴はキューバに融和的な交渉姿勢への転換を促す圧力の意味合いが大きいと言う。 「ラウルの引退生活は、かなり居心地の悪いものになった」と、ゲダンは語る。「とはいえ侵攻が差し迫っているわけではない。トランプは中東への対応で手いっぱいだし、支持者らも新たな軍事介入を熱望しているわけではない」 その一方で、侵攻の脅しには現実味があるとも指摘する。「その結果、アメリカからの投資受け入れを拡大する経済改革を求める交渉において、アメリカ側の交渉力が高まる可能性がある」 もっとも、それが最終的な目的ならカストロ個人を追及しても大した前進にはつながらないと、カリフォルニア大学サンディエゴ校の国際政治経済学名誉教授で、かつてホワイトハウスや国務省の要職を歴任したリチャード・ファインバーグは指摘する。 「ベネズエラ方式をキューバに適用しても機能しない」と、彼は本誌に語った。「カストロの拉致は極めて困難だが、仮に米軍がそれを実現できたとしても、深刻化する危機の解決にはさほど寄与しない。キューバはカストロ一族に支配されているという神話があるが、実際に国を支配しているのはキューバ共産党という制度と、それに連なる軍・治安機構だ」 ファインバーグの見立てでは、トランプ政権の真の狙いは別のところにある。アメリカに亡命したキューバ人コミュニティーは、60年以上にわたってカストロ一族への報復を求めてきた。「今回の起訴は、彼らへのメッセージという側面が強い」