海水のウラン採る
2009年8月4日
国産実現へ吸着技術
原子力発電の燃料になるウランは全量を海外に頼る。一部でも“国産化”できないか、と考えたのが海水からウランを集める方法。技術的に可能¥で、最大の課題のコストも大幅に削減できることが最近の研究で分かった。 (栃尾敏)
【資源の宝庫】
四方を海に囲まれた日本。海水にはウランやチタン、バナジウムなど有用希少金属を含め七十¥七の元素が溶け込んでいる。
このうちウランは、海水一トン中に三・三ミリグラム。全世界の海水には鉱山ウランの推定可採埋蔵量の一千倍、約四十¥五億トンが溶存する、とされる。黒潮で日本に運ばれるウランは年間五百二十¥万トンあると推定され、0・2%程度回収するだけで国内原発の年間需要量約八千トンをまかなえる。
「宝の海」からウランをつかまえてくる研究は、一九六〇年代に英国で始まった。当時は、海水をポンプでくみ上げ、ウランを捕集する方法だったため、ポンプ動力の電気代や設備費が膨大。日本でも試みたが、コスト高で実用化できなかった。
八〇年代に入り、開発されたのが「放射線グラフト重合法」。日本原子力研究開発機構¥の高崎量子応用研究所(群馬県高崎市)が研究を続けている。
【“手”を使う】
「アミドキシムという吸着基を使う技術です。これが人間の手のようにウランをつかまえてくれる」。同研究所金属捕集・生分解性高分子研究グループ研究副主幹の瀬古典明さんはそう説明する。
ポリエチレン製のフェルト状の生地に放射線を当てると、そのエネルギーで今まで結合していたC(炭素)とH(水素)が切れる。切れたところは、さまざまな新たな機能¥を接ぎ木のように付けることができるので、そこに化学薬品を注ぐと、ウランをつかまえる機能¥(アミドキシム基)が付き、吸着材が出来上がる。
「グラフトは『接ぎ木』の意味。植木屋さんが丈夫な原木に接ぎ木し、美しい花が咲く木にするように、電気特性のいい材料に放射線を当て、科学的に接ぎ木することでさまざまな機能¥を持った材料にする」(瀬古さん)
吸着材に付いたウランは、硝酸溶液などで溶かし出して精製する。
【コストの壁】
実用化の最大のハードルはコストだ。吸着材を布状にした捕集材を青森県むつ市の関根浜沖合で、モール状にした捕集材を沖縄県恩納村沖合でそれぞれ使って、性能¥評価試験をした。
青森では、八メートル四方のフレームを組み、中に材料の寝床(吸着床)を作って捕集材を設置。沖縄はいかりを付けた長さ六十¥メートルの捕集材を沈め、コンブのように立ち上げてウランを捕集した。その結果、温暖な沖縄の海の方が捕集効率がよく、コストも抑えられることが分かった。
このため、沖縄で年間千二百トンのウランを捕集した場合のコストを試算。捕集材一キログラム当たりのウラン回収量は四グラム、捕集材を八回繰り返し利用すると、一キログラム当たり三万二千円になった。
ウラン価格は一キログラム当たり約一万三千円、三倍弱の開きがある。千二百トンのウランを採るにはモール捕集材をいっぺんに百八十¥七万本沈めることになり、コストだけでなく広い海域も必要になる。
だが、瀬古さんは「研究開発を進め、捕集材の改良で四グラムの回収量を十¥グラムにし、六十¥回ぐらい繰り返し使えるようにすればコストを下げることは可能¥」と話す。バナジウムなど他の資源金属も捕集できるようにすれば、さらにコストダウンにつながるという。
ウランが輸入だけでなく、海水からも手に入ればウラン産出国との交渉も有利になる。瀬古さんは「国が施策としてゴーサインを出せば、技術やコストの課題は克服できる」と期待する。
<記者のつぶやき> 電力会社は長期契約でウラン原料を確保するから、原油のようなスポット価格の変動の影響は少ない。とはいえ、加速する世界の原発建設の動きを考えれば安定供給に不安が。海から採れれば、貴重なカードになる。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/technology/science/CK2009080402000143.html