尖閣諸島付近で日本の巡視船と中国漁船が衝突した事件で、中国政府は丹羽宇一郎駐中国大使を何度も呼び出して抗議するなど強硬姿勢を続ける。民間には「海軍の利用を含めた権益保護を考慮すべきだ」(上海社会科学院の金永明教授)との意見まである。
過去の中国の対日強硬姿勢には国内の「反日世論」への配慮が少なからず影響していたが、今回はどうもそれだけではない。領有権問題に対する中国政府自身の強い意志が感じられるのだ。
中国は尖閣諸島のある東シナ海だけでなく、南シナ海でも南沙(英語名・スプラトリー)諸島などで周辺国と領有権を争うが、今年3月ごろから、南シナ海を「核心的利益」と呼び始めた。台湾やチベットと同じ表現で、この問題では妥協しないという姿勢の表れだ。
しかし、海軍力を増強させ、海の権益増大に執着する中国には米国や関係国が警戒を強める。クリントン米国務長官は7月の東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)で「南シナ海での航行の自由は国益に合致する」と述べ、中国を強くけん制した。
尖閣問題でも中国が最も気にするのは米国の出方だ。外務省の姜瑜副報道局長は16日の会見で「釣魚島は中国固有の領土だ。この地域に存在する(米軍などの)外国軍や(日米安保条約などの)2国間協定は、中国の利益を害するべきではない」と述べた。
アーミテージ元国務副長官が15日に東京で「日米関係が冷たくなっているから、どこまでなら許されるのか試している」と中国の強硬姿勢の背景を分析し、防衛費増額や日米共同訓練拡大を提案した。姜副局長の発言はこれへの反論だ。
米国の歴代政権は日中の領有権問題には介入しないが、日本の施政下にある尖閣諸島には日米安保条約が適用されるとの立場を取っている。中国は南シナ海と同様に尖閣諸島に対しても米国が関与を強めることを警戒しているのだ。
北京の外交筋によると、中国はオバマ政権発足後、米国と安保条約の解釈と運用についての協議の場を持ち、尖閣諸島への適用に直接言及しないようにたびたび働きかけてきたという。
中国の古典「孫子の兵法」は、戦わずして勝つためには敵の謀略を見抜き、同盟関係を妨害することが有効と説く。現代中国は米国の「謀略」を疑いながら、日米同盟を揺さぶろうとしている。日本は同盟の足元を固めつつ、冷静さを保つことが上策だ。【浦松丈二】