「この問題をめぐって何年も交渉してきたが、進展がまったくみられない。われわれは日本側の態度に少々がっかりしている」
欧州連合(EU)関係筋は、これまでの日本との自由貿易協定(FTA)交渉を苦々しげに振り返る。
EUは10月6日、韓国とのFTAに署名した。日本にとってアジアのライバル韓国は、自動車や電機など欧州向け輸出で一気に優位に立った。それを承知のEUが、日本側を揺さぶる狙いなのは明らかだ。
EUが日本とのFTAを長年望んできたのは、農産物の市場開放や商業規制など日本の非関税障壁を撤廃させることで、対日貿易の拡大を図ることはもちろんだが、より一層深い狙いがある。あるEU関係者は「世界経済はこのままでは、米中の両大国が牛耳る展開になる。欧州と日本は利害を超えて手を携え、対抗すべきだ」と、EU・日本連合による『第三極』の構築を提案する。欧州と日本を合わせれば世界の国内総生産(GDP)の4割を占める規模になる。
しかし、日本政府筋は「こちらから安易にカードは切れない。関税引き下げなどEUの譲歩の姿勢が見えてこない限り、産業界など国内を説得できる自信はない」と乗ってこない。
FTAが暗礁に乗り上げてしまっている実態を前に、日本国内の一部などには、FTAのような包括的な提携にこだわらず、たとえば投資協定など部分的な協力関係の構築から突破口を見いだす動きもある。

しかし、EU本部のあるブリュッセルでは、「投資協定にどれだけメリットがある
のか。われわれが目指すのは、もっと野心的な合意だ」(EU関係者)と、日本側
に“大胆な譲歩”を促す声が大半なのだ。
日本の総貿易量に占めるEUの割合は12・2%で、米国、中国に次ぐ3位だ
が、EUの総貿易量に占める日本の割合はわずかに4%。米国、中国、ロシア
などの大国の後塵(こうじん)を拝するだけでなく、スイスや最近はノルウェーに
も抜かれた。
4月にEUと日本は定期首脳会議を東京で開いた。今年期限を迎える「日・EU
共同行動計画」を引き継ぐ枠組み作りを模索するためだが、日本を代表した鳩
山由紀夫首相(当時)はとうに政権の座を去り、「日本は政権が安定しない」との
印象をEU側に植え付けた感はぬぐえない。
ブリュッセルで感じるのは、韓国や中国などアジア諸国のEUへの食い込みよ
うだ。中国の温家宝首相は10月上旬、欧州を歴訪。財政危機に陥ったギリシャ
の国債買い入れ方針を表明したのも、「高成長で得たマネーを外貨準備に変
え、欧州で発言力を増す」(民間シンクタンク)思惑がある。尖閣諸島(沖縄県石
垣市)近海で起きた中国漁船衝突事件の直後、「中国は英国などに迅速に説明
に回っていた」と日本政府筋は明かす。中国はEUの対中部門へのロビー活動
はもちろん、国営新華社通信のスタッフをブリュッセルに大量に駐在させ、欧州
系シンクタンクにも積極的に支援を行っているとされるなど、欧州で「親中世論」
の醸成に余念がない。
欧州政策センターのハンス・マーテンス氏は「自動車メーカーが製造拠点を築
くなど欧州にとって日本との関係は深い。だが、人権問題はあっても、高成長を
続ける中国への大規模な投資が必要だ」と話す。
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米国を超える約5億人の人口と世界のGDPの2割を抱えるEUだが、急拡大にきしむ統治体制や経済・移民問題、外交など課題も山積する。EUの“首都”ブリュッセルの視察から報告する。(柿内公輔)