年の瀬もここまでくると、来年の予想がしたくなる。といっても先日、ある会合で評論家の増田悦佐(えつすけ)氏に聞いた受け売りなのだが、悲観論の多い日本経済の悪くない話である。
増田氏は米国で大学教員をつとめ、証券業界に転じた。日本ではあまり歓迎されない「円の独歩高」について、日本経済が他国に比べて相対的に信用されている証拠という持論も、一部で知られている。そして「来年は空前の日本投資ブームになる」という。
欧米や中国に比べた「相対論」だが、その優位性で大増税を避ける道も生まれる、と主張する。会合の参会者は耳をそばだてた。
世界経済の不安定要因は、デリバティブ(金融派生商品)という市場外取引だけで、世界中で生産される財とサービスの総額(GDP)の約9倍、600兆ドル(約4京6800兆円)という金融肥大化である。たとえば、その5%でも買いや売り一辺倒になれば、一気に30兆ドルが動く。
不安定さは欧州の方が米国より深刻だ。欧州は経済の峠がみえた1980年代から、収縮する製造業ではなく金融業の拡大に走った。低金利で調達した資金を高利で他国に貸し込む。やがて「あぶない国々」の債務危機で、基幹の金融業そのものが連鎖的に大打撃を受けることになった。
「自らの生活レベルは絶対に落とさない」。そこに植民地時代からの既得権意識がある、と増田氏はみる。英国やフランスばかりでなく、オーストリアやスウェーデンなども「帝国時代」が忘れられず、東欧やバルト諸国の金融支配につながった、という。
欧州と同じように金融の弱体化に苦しむ米国、貿易黒字を荒稼ぎしてきた中国経済にも陰りがみえる中で日本には、40年来続く円高に負けない強さがある。
「その対外純資産は世界最大であり、債務を全額返済しても、国民1人当たり約220万円の純債権が残る勘定です。外国債券が目減りする前に10兆円くらいを取り崩せば、検討中の増税分くらいはまかなえる」と、増田氏は語る。
帝国時代を忘れていない欧州、という分析は印象的だが、翻って戦後、いち早く帝国を脱ぎ捨てた日本は、どんな「記憶」をよりどころに再建の道を歩んだのだったか。はなはだ覚束(おぼつか)ない。ほんとうに日本投資ブームがくるなら、その資金は今度こそ、目指すべき日本の国柄を見据えた目的に活用されるべきだろう。(編集委員 平山一城)
サンケイ新聞(2011.12.29)抜粋
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111229/fnc11122908320001-n1.htm