

JR西日本
あの「加賀屋」と組んだ北陸観光列車の実力!
北陸新幹線の金沢開業に沸く北陸地方に、また1つ、力強い援軍が加わろうとしている。金沢―和倉温泉間を走る2両編成の観光列車「花嫁のれん」。運行開始は10月3日を予定している。
ここ数年、全国各地で観光列車がブームとなっている。JR西日本も観光列車を次々と世に送り出してきた。
船を思わせるデザインが魅力の「瀬戸内マリンビュー」(広島―三原間)、大正・昭和期に活躍した詩人、金子みすゞをモチーフとした「みすゞ潮彩」(新下関―下関―長門市―仙崎間)など、地域で愛される観光列車も数多い。どちらも鉄道旅を楽しむことを念頭に、最上級の趣向を凝らしているのが特徴だ。
■重箱のような外観と旅館さながらの内装
今回の花嫁のれんは、こうしたJR西日本の観光列車戦略を踏襲しつつも、さらに“驚き”を感じさせるデザインとなっている。
外観デザインのイメージを一言で表現すると「重箱」。正月におせち料理を入れる、あの箱だ。輪島塗をモチーフとした赤と黒を基調に、加賀友禅の着物の柄のような花や蝶がちりばめられている。
内装は1号車と2号車で異なる。1号車には半個室タイプの座席が8つある。通常の鉄道車両の指定席では、座席は「1A」とか「2B」のように数字とアルファベットで表示されるが、花嫁のれんの1号車では「桜梅の間」「撫子の間」と示されている。
座席どうしを仕切る格子が、旅館の和室のような雰囲気を醸し出す。通路に敷かれている絨毯の柄が日本庭園の飛び石をイメージしているのも「旅館」という形容にぴったりだ。
2号車は大型液晶スクリーンが設置されたイベントスペースが設けられている。車内は開放感のある造りになっており、「にぎやかに旅を楽しむのがコンセプト」(JR西日本)という。
このような乗客を楽しませるための徹底的なこだわりは、JR九州の観光列車とどこか共通しているように見える。同社は1990年台初頭にそれまで鉄道とは無縁だった工業デザイナーの水戸岡鋭治氏を起用し、当時の鉄道業界の常識では考えられないデザインの車両を次々と九州全域に送り出してきた。今や全国の観光列車の頂点に上り詰めたといっても過言ではない。
そんなJR九州について、花嫁のれんの内装デザインを手掛けた井上昭二氏は「めちゃくちゃ意識してますよ」と言う。同氏は、国際花と緑の博覧会で「JAL」パビリオンや「JR義経号」パビリオンなどの総合デザインを担当したほか、愛・地球博「日本政府館」のビジュアルデザインなど、数多くの実績がある。鉄道分野では、近畿日本鉄道の豪華特急「しまかぜ」を手掛けた。
■ちりばめられた"遊び"のデザイン
観光列車のデザインにかかわる者なら、JR九州の列車が気にならないはずはない。「あっち(JR九州)よりもよいものを造ろうと思った」と井上氏は率直に打ち明ける。能登の魅力を車両全体に取り入れつつ、JR九州の観光列車を上回るものを造るべく、知恵を絞った。
井上氏が意識したのは、一般的な鉄道車両と違って「シンメトリー(左右対称)が一切ない」という点だ。通路だけでなく、天井の照明までもが一直線ではなく、クネクネと曲がっている。「金沢の曲がりくねった小径を歩くイメージ」(井上氏)だ。
「デザインでは遊びに遊ばせてもらいました」と言う井上氏だったが、遊び心満点のデザインを実現させるために、製造現場と相当な議論がかわされていた。 JR九州の観光列車は木材をふんだんに使っているが、水戸岡氏は難燃性の素材の使用をめぐって製造現場と何度も議論を重ねたと明かしている。井上氏も列車 に用いる材料についてJR西日本の製造現場と何度も議論したという。
たとえば、1号車に敷かれている日本庭園の飛び石をデザインした絨毯。当初 は車両の床に本物の石を敷き詰めるというアイデアだったが、車両が重くなるために見送られた。最終的に絨毯の柄で表現するということになり、井上氏が細か い石の粒1つ1つを図案に起こして「日本庭園の飛び石」を再現したのである。
また、1号車の座席は丸棒を格子状に並べることで視界を遮り、個室のような雰囲気を出しているが、これも当初案では角材を用いるはずだった。
この棒は列車が揺れた際に乗客が握る手すりの役割も果たすが、角材では握りにくいということで、最終的に角が削られ丸棒となった。
1号車の壁面の一部は金沢金箔で装飾されている。金沢を代表する伝統工芸だが、「車両の内装に伝統のものを使うことはなかなかない」と、車内装飾の施工を 担当した伝統産業メーカー・箔一の浅野達也社長は語る。「内装に使うには、光や摩擦などさまざまな問題がある。デザイナーと何度も打ち合わせをして、よう やく完成した」。
遊び心と安全性を両立させるギリギリの折衝の末、ようやく完成した車両について、井上氏は「思わず記念写真を撮りたくなるカメラスポットがたくさんあるでしょ」と胸を張る。
花嫁のれんは既存の車両を改造して製造された。同じく既存の2両編成の車両を改造したみすゞ潮彩の製造費用は8000万円だった。花嫁のれんの製造費用は非公表だが、みすゞ潮彩を上回っているのは確実だろう。

■最大の売りは「極上のおもてなし」
花嫁のれんには、日本のどの鉄道会社もかなわない大きなセールスポイントがある。
北陸を代表する旅館といえば、花嫁のれんの終着駅・和倉温泉にある「加賀屋」があまりにも有名。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(旅行新聞新社主催)で1位を連続受賞し、日本を代表する温泉旅館でもある。その加賀屋が花嫁のれんのサービスを担っているのだ。
加賀屋の総料理長が監修した料理が車内で提供されるほか、加賀屋の客室係1名と加賀屋で研修を受けたJRグループ社員2名がアテンダントとして乗務し、車内でサービスを提供する。JR社員の接客は加賀屋の客室係と「区別がつかないレベル」(JR西日本)だという。
つまり、列車に乗りながら加賀屋の料理とサービスを楽しむことができるわけだ。「能登の優しさや温かさが伝わるような“おもてなし”をしたい」と、加賀屋の小田與之彦社長は意気込む。
そもそも花嫁のれんとは、北陸地方で見られる、婚礼に用いる特別な暖簾(のれん)のことである。花嫁のれんは婚礼の当日、婚家の仏間の入り口にかけられ、 花嫁はそれをくぐって仏壇の先祖にお参りをして、その後に結婚式に臨むという。そんな名前を授かった車両だけに、加賀屋の小田社長も完成した車両を前に 「娘を嫁に出す気分」と感慨深げだ。
■なぜディーゼル車を使ったのか
花嫁のれんに用いた車両は、ディーゼル車であるキハ48の改造車。金沢―和倉温泉間は電化区間なので、ディーゼル車を導入する必要はない。
なぜディーゼル車なのかという問いに対し、「改造して使える車両がたまたまディーゼル車だった」とJR西日本の担当者は語る。ただ、そのあとにこう付け加えた。「ディーゼル車なので将来、どこにでも行けることを想定している」。
七尾―穴水間は、第三セクターののと鉄道が運営しており、和倉温泉とレールでつながっている。のと鉄道は非電化区間なので、ディーゼル車であれば乗り入れも可能だ。
のと鉄道は観光列車「のと里山里海号」を保有している。こちらは豪華絢爛な花嫁のれんとは異なり、能登に息づく伝統工芸品を各所に配置した落ち着いたムードあふれる車両である。相互乗り入れともなれば、花嫁のれんと里山里海号の共演も期待できそうだ。
さらにJR西日本は、10月10日から富山県内の城端線と氷見線に新たな観光列車「ベル・モンターニュ・エ・メール」を運行させることも発表している。この長い車名はフランス語で「美しい山と海」を意味する。愛称は「べるもんた」だ。
しかも氷見線には、氷見市出身の漫画家・藤子不二雄A氏にちなんで「忍者ハットリくん列車」が走っている。そこへ花嫁のれん、里山里海号も加われば、能登半島付近に観光列車がズラリ勢ぞろいすることになる。
新たな観光列車王国として浮上した北陸地方。九州との「観光列車対決」は、今後ますます激しさを増していきそうだ。

■News Source (東洋経済オンライン)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150905-00083058-toyo-bus_all&p=1
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