<韓国は「大卒貧困者の割合が世界トップレベル」の社会。BTSや『愛の不時着』が世界でヒットしても、若者たちの「現実」は想像以上だ>
8月末、ポップグループ、BTSのシングル「Dynamite」が米ビルホード「HOT 100」で1位を獲得して話題になった。それに先駆け昨年から映画『パラサイト 半地下の家族』が大ヒットしてもいる。『梨泰院クラス』『愛の不時着』と、ドラマも好調だ。【印南敦史(作家、書評家)】
そんなところからも分かるとおり――少なくとも文化的な面においては――韓国には先進的かつ洗練されたイメージがあると言えるだろう。
ところが、『韓国の若者――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』(安宿緑・著、中公新書ラクレ)の見解は少し違っているようだ。著者は東京に生まれ、小平市の朝 鮮大学校を卒業した後は米国系の大学院を修了。朝 鮮青年同盟中央委員退任後に、日本のメディアで活動を開始したというライター、編集者である。
2020年2月、韓国映画「パラサイト――半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)がアカデミー賞で作品賞など4つの部門を受賞するという、外国語の映画として初の快挙を遂げた日、筆者はソウルにいた。筆者が現地のバーや露店で若者にその話題を振ると、嬉しくてたまらない、といった様子の人はほとんど見受けられなかった。市井の反応など大体はそんなものであるが、むしろ「それどころじゃない」、そんな心の声が伝わってくるかのようだった。取材を進めていくと、この温度差こそが「パラサイト」が断片的に描き出したリアルであったということを認識するようになった。(「はじめに」より)
理由は、1999年6月以降最多だという失業者数の多さだ。そのうち6割が15~29歳で、全年齢中最も多かったという。
しかしその一方、大学進学率は70%台で推移しており、国民の約8割が大卒にあたる。ところが大卒者であっても、一握りの者しか入社できない財閥系大企業の正社員になれなければ、30歳で年収2000万~3000万ウォン、つまり日本円に換算すれば200万~300万円に留まり、生涯賃金の格差は大きい。
「高学歴貧困者」の数が世界トップレベルにあるため、多くの若者が必然的に大企業を目指しては落ち、人生を浪費するのだ。そう聞くだけでは実感が伴わないかもしれないが、本書を読み進めていくと、想像を超えた韓国の若者の“現実“に驚かされることになる。
韓国南東部の港湾都市、釜山出身のミン・チュナさん(仮名・23歳・女)は2019年1月に技術系の短大を卒業し、今は仁川で一人暮らしをしている。
家賃は46万ウォン。卒業と同時に教授の斡旋でウェディングプランナーとして就職できたが、そこは朝10時から夜7時まで働いて月給が80万ウォンという、いわゆる「ブラック企業」だった。
「友達はホテルに就職して月給220万ウォンもらっているのに......。私は家賃とスマホ代だけでカツカツ。これならバイトのほうが倍以上は稼げると思い、昨年10月に退職したんです」
そんなところからも分かるとおり――少なくとも文化的な面においては――韓国には先進的かつ洗練されたイメージがあると言えるだろう。
ところが、『韓国の若者――なぜ彼らは就職・結婚・出産を諦めるのか』(安宿緑・著、中公新書ラクレ)の見解は少し違っているようだ。著者は東京に生まれ、小平市の朝 鮮大学校を卒業した後は米国系の大学院を修了。朝 鮮青年同盟中央委員退任後に、日本のメディアで活動を開始したというライター、編集者である。
2020年2月、韓国映画「パラサイト――半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)がアカデミー賞で作品賞など4つの部門を受賞するという、外国語の映画として初の快挙を遂げた日、筆者はソウルにいた。筆者が現地のバーや露店で若者にその話題を振ると、嬉しくてたまらない、といった様子の人はほとんど見受けられなかった。市井の反応など大体はそんなものであるが、むしろ「それどころじゃない」、そんな心の声が伝わってくるかのようだった。取材を進めていくと、この温度差こそが「パラサイト」が断片的に描き出したリアルであったということを認識するようになった。(「はじめに」より)
理由は、1999年6月以降最多だという失業者数の多さだ。そのうち6割が15~29歳で、全年齢中最も多かったという。
しかしその一方、大学進学率は70%台で推移しており、国民の約8割が大卒にあたる。ところが大卒者であっても、一握りの者しか入社できない財閥系大企業の正社員になれなければ、30歳で年収2000万~3000万ウォン、つまり日本円に換算すれば200万~300万円に留まり、生涯賃金の格差は大きい。
「高学歴貧困者」の数が世界トップレベルにあるため、多くの若者が必然的に大企業を目指しては落ち、人生を浪費するのだ。そう聞くだけでは実感が伴わないかもしれないが、本書を読み進めていくと、想像を超えた韓国の若者の“現実“に驚かされることになる。
韓国南東部の港湾都市、釜山出身のミン・チュナさん(仮名・23歳・女)は2019年1月に技術系の短大を卒業し、今は仁川で一人暮らしをしている。
家賃は46万ウォン。卒業と同時に教授の斡旋でウェディングプランナーとして就職できたが、そこは朝10時から夜7時まで働いて月給が80万ウォンという、いわゆる「ブラック企業」だった。
「友達はホテルに就職して月給220万ウォンもらっているのに......。私は家賃とスマホ代だけでカツカツ。これならバイトのほうが倍以上は稼げると思い、昨年10月に退職したんです」
<若者たちは愚直なまでに勤勉で誠実、実力も高かったが>
では就職で勝ち抜くことができれば幸福かといえば、そう簡単な問題でもないようだ。
日本でも販売されているラーメンなどを製造する大手食品企業で勤続3年目となるオ・テグさん(仮名・38歳・男)。彼は英語、韓国語、スペイン語と中国語の4か国語ができ、IT関連の各種資格を持つハイスペック人材だ。(36ページより)
名門大学を2年間休学して海外を放浪。帰国後は半年ほどかけて就活を行う。エントリーシートを出した50社中、5社は最終面接まで辿り着き、そのうち大企業数社から内定を獲得したというのだから、先の女性と比較するまでもなく恵まれているようにも感じる。だが思いは複雑で、生まれたばかりの子どもには同じような競争は経験させたくないと話す。
「食品業界は社風も保守的で、イノベーションが必要とされないので業務は単調です。ほかに内定していた会社にすれば良かったと悔やまれます。かといって、今辞めても僕の歳ではほかの業種への転職は厳しい」
人気の大手企業に就職し、活躍する立場にまでなっても、その幸福度は低いようで、「これで良かったのかと逡巡する毎日」と、テグさんは話す。