【萬物相】インチキ「グルメ番組」
南漢山城の南門に向かう登り口、数十軒の飲食店が立ち並ぶ中、「KBS・MBC・SBSの味自慢に出ていない店」という看板を掲げた店がある。テレビ番組に出演したことを自慢し、客を呼び込もうとする飲食店が多い中、この珍しい看板はとりわけ目を引く。テレビにあふれるグルメ情報番組に対する人々の不信感やからかいの気持ちが、それだけ大きいということだ。
韓国でおいしい店を紹介し普及させた立役者といえば、『将軍の息子』を書いた小説家、洪性裕(ホン・ソンユ)が挙げられる。1980年代半ばに国民所得が2000ドル(現在のレートで約16万円、以下同じ)を超え、外食産業が定着し始めたころ、同氏の雅号を冠した『伯坡別味(自慢の味)紀行』は、グルメを追い求める人々を飲食店に呼び込んだ。当時、洪性裕が「今のグルメの党首(リーダー)は私だが、初代党首はほかにいる」と言った人物がいる。50年代に雑誌でグルメに関するコラムを連載し、同誌の販売部数を2倍に引き上げた童話作家、馬海松(マ・ヘソン)だ。
当時、ソウルで最高の洋食店といわれた南山外交倶楽部のシェフは、新メニューを開発すると真っ先に馬海松に試食させ、評価を求めたという。80年代後半、洪性裕がソウル市江南区の鯨料理店についてのコラムを書いた3週間後、その店を訪れた。店主は「この3週間の売り上げが、1年間の売り上げを超えた」と語った。二人の多大な影響力は、大衆が二人の評価を信じ、従ったことから生まれた。
以前は、日本でも「おいしい」を連発するテレビ番組があふれていたが、最近は韓国のテレビがそれを真似ている。客が親指を立てて「本当においしい」「精力もつくらしい」などと称賛する地上波番組は10を超える。1年もたてば、少なくとも数千店の「おいしい店」が生まれる計算になる。番組の通りなら、韓国人は「味の天国」に暮らしていると言ってもおかしくない。
先週、全州国際映画祭に出品されたキム・ジェファン監督のドキュメンタリー映画「トゥルーマッショー(マッは味の意味)」が、地上波のグルメ番組をめぐる不正行為の実態を暴露した。ある番組で「死ぬほど芸術的」と料理を絶賛していた人は、番組のために用意された偽の客だった。飲食店100店余りから金銭を受け取り、グルメ番組の制作会社との橋渡しをしていた仲介者の存在も明らかになった。キム監督自身が軽食店を経営し、放送局2社にそれぞれ1000万ウォン(約74万円)、900万ウォン(約67万円)を払い、グルメ番組に出演する様子も紹介された。ただでさえ味気ない日常の中で、食べることくらい楽しみたいという人々の気持ちをもてあそんだ放送局に、どうおきゅうを据えればよいのだろうか。
日本と比較すると、店の数も少なく、質も低いのに、同じような番組を作ろうとするから無理がある。