「このケータイを使うと、なんだか犯罪者になったような嫌な気分になる」
出張先の中国南部の広東省で、仲良くなった30代のホテルマンと雑談をしていたら、突然こう言われてびっくりした。
彼が手にしていたのは何の変哲もない黒い携帯電話だった。「気にしない人もいるだろうが、私はダメだ」と、ため息をつきながらわけを説明してくれた。
3年ほど前、携帯電話ショップで当時の相場が千元(約1万2千円)のこの電話を半値で買った。セールで安くなったと思っていたが、家で箱を開けたら「四川 省の被災者のみなさん、一緒に頑張りましょう」とのメッセージが入っていた。どこかの企業が2008年の四川大地震の際に寄付した携帯電話のようで、被災 者に配られず業者に横流しされたものと思われた。
最初の数カ月は普通に使っていたが、だんだん気になり出し、心が晴れない。「定価より安く買った私は、ある意味で義援金泥棒ではないか」と語る彼の表情はやはり暗かった。
「それなら得をした差額の500元をどこかに寄付すればいいのでは…」
一瞬、そうアドバイスしようと思ったが、この国では寄付金は本当に必要な人のもとに届かず、誰かに食い物にされるかもしれないことを思い出し、何も言わなかった。(矢板明夫)
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