北核実験 権力基盤弱く、遺訓頼み ソウ
ル駐在特別記者・黒田勝弘
2013.2.13 03:16
経営難の家業を世襲で受け継いだ3代目の若いトップ経営者がまだ新しい経営方針を実行できないでいる。長距離ミサイル発射の後、今度は核実験まで強行した北朝鮮の最高指導者、金正恩第1書記の姿はそんな感じだろうか。
金正恩第1書記は、元日の「新年の辞」では今年の目標としてまず「経済強国建設と人民生活向上」を挙げている。これは“創業者”の金日成以来、19年ぶりとなる肉声による国民への直接の“公約”だ。にもかかわらず目立つのは相変わらず軍事である。
若い世襲後継者というのは、経験不足や自信の無さ・不安から、新しいことを始めるよりまず守りに入る。先代や先々代が客観的業績はともかく国民向けには神格化された絶対服従の存在だったため、その威光を借り自らの地位を固めようとする。
父、金正日もそうだった。いわゆる「遺訓統治」である。金正恩第1書記も「父なる将軍の遺訓を一寸のぶれもなく一歩の譲歩もなく徹底的に貫徹しなければならない」(昨年12月8日、朝鮮中央テレビ)と語り、その遺訓として一周忌(12月17日)を前に長距離ミサイルを発射している。
2代目・金正日は初代・金日成のお墨付きで国民を納得させながら、新しい統治手段として「先軍思想」「先軍政治」を言い出し軍事優先政策を強行した。人民生活は疲弊したが、軍を強化し軍を握ることでその地位を守ることができた。
北朝鮮では最近、しきりに「金日成・金正日主義」という言葉が登場する。3代目・金正恩体制がやることはすべて先々代、先代の教えに従ったもので正しいという国民への宣伝だ。今回の核実験もその遺訓統治の一環であり、先代の威光と軍の信頼で自らの権力基盤を固める狙いがある。
遺訓への依存が続いているのは、自らの権力基盤がまだ十分に固まっていないことを意味する。3代目はまだ不安なのだ。この状況では「新年の辞」で約束した新しいことはやれない。
金正恩体制がやりたい新しいことというのは「新年の辞」や異例の党細胞書記大会などで本人が強調している「経済強国建設と人民生活の画期的な転換」とみて間違いない。
その意味で祖父、金日成が残したいまだ実現されていない遺訓がある。「わが社会主義の目標は人民に白いご飯と肉のスープを食べさせることだ」というのがそれだ。
金正恩第1書記は体つきからヘアスタイル、服装、歩き方、身のこなしまで、祖父の“そっくりさん”にしてある。祖父の遺訓実行に向け、父が残した先軍路線の手直し準備はできていると思うのだが。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130213/kor13021303390007-n1.htm