欧米とロシア、新冷戦なのか 経済依存の打撃大きく
(1/2ページ)2014/3/16 19:25小サイズに変更中サイズに変更大サイズに変更保存印刷リプリント東西冷戦の終結から今年で四半世紀。節目の年に、ウクライナの将来をめぐって欧米とロシアが厳しい対立に陥った。過去25年の間に、経済の相互依存は格段に進んだ。経済制裁と対抗措置の応酬になれば、双方とも大きな打撃を受ける。

欧州連合(EU)諸国はロシアを非難しつつも、制裁は段階的に進めて外交解決の可能性を探る。一方、ナショナリズムの高揚を求心力のテコにしようとするロシアのプーチン大統領は、押せるところまで押そうとするつもりだろうか。
1991年12月にソ連が消滅した後、米国とロシアの協調は長くは続かなかった。対立の中心にあったのは、西側の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の東方への拡大だ。ソ連のくびきから解放された国々が、ロシアの脅威から自らを守る安全保障のよりどころを求めたのは、当然の成り行きでもあった。
94年12月5日、ハンガリーのブダペストで開かれた全欧安保協力会議(CSCE)首脳会議で、クリントン米大統領(当時)は「いかなる国もNATO拡大に拒否権を行使できない」と演説。エリツィン・ロシア大統領(同)は「あなたたちはなぜ不信の種をまくのか」「欧州が冷たい平和に陥る危機だ」と反論した。
利害が再びぶつかる時代の幕開けを象徴する演説と同じ日に、米ロ両首脳とメージャー英首相(同)は「ブダペスト覚書」と呼ばれる外交文書に調印した。ソ連崩壊後も残っていた核兵器をウクライナが放棄する見返りに、同国の領土の保全を核保有国である米ロ英が保障する内容だ。この覚書が今回の対立で重要な意味を持つようになる。
EUとロシアの貿易額は米ロ貿易のおよそ10倍。ロシアの輸出の半分はEU向けで、原油と天然ガスがその6割近くを占める。ドイツは天然ガスの4割以上と原油の3分の1をロシアに依存する一方、6200社もの独企業がロシアに進出し、投資額は200億ユーロ(約2兆8000億円)に達するほど結びつきは強い。
ドイツの世論調査ではプーチン大統領は信頼できないとする人が75%に達するが、対ロ経済制裁を支持する人は38%にとどまる。
英国でもロシアの存在感が強くなった。ロンドンのホテルのロビーでは必ずロシア語の会話が聞こえる。中国人の団体観光客と違って、ロシア人は男性2~3人という例が多い。不動産会社や金融機関にはロシア人担当者がいる。今のロンドンは、ロシアのマネーの最大の受け皿の一つだ。
キャメロン英首相はロシアへの圧力が必要と訴えるが、「金融センターからのロシア排除を支持すべきではない」という政府の内部文書も暴露されている。

16日、ウクライナ南部クリミア半島セバストポリで、住民投票参加を呼び掛けるポスターの前を歩く男性=ロイター
原子力大国フランスは、エネルギー面でのロシア依存度は低い。だが、オランド大統領が「われわれの決意と同時に、対話と交渉の意思を知らせる」と語ったように、ロシアとの通商関係をできるだけ損ないたくないと考えている。
米国では強力な金融制裁を実施すべきだという声も広がっているが、EUは対イランのような強い制裁で米国と足並みをそろえる状況には至っていない。
メルケル独首相はプーチン大統領と頻繁に電話で話し合う。首相が伝えているのは、ロシア軍によるクリミア半島の事実上の占領とロシアへの併合の動きが、ブダペスト覚書に違反しているという警告だ。
ロシア側は、住民投票によってコソボがセルビアから独立し、欧米がそれを認めた例をあげ、クリミアの住民投票によるウクライナからの離脱を正当化しようとする。ラブロフ・ロシア外相は、対ロ制裁を発動すれば「ブーメランのように自らに跳ね返ってくる」とけん制している。
だが、ロシア側に跳ね返るブーメランの打撃は欧州より深刻かもしれない。経済成長率の低下が目立っていたところに、今回の対立で資本流出が加速した。通貨ルーブルの暴落に歯止めをかける利上げが、景気をさらに冷え込ませる。
2%台と見込まれていた今年の実質成長率が「1%を割り込む」「マイナス成長に陥りかねない」と、ロシアの経済界には危機感が広がっているという。地政学リスクの顕在化で、すでに欧米の銀行は与信を絞り始め、ロシア企業の資金調達コストが跳ね上がりつつある。ロシア企業は悲鳴を上げるが、悲鳴は政権に伝わっているのだろうか。
ロシアではウクライナ関係の政策は、治安組織出身者が中心の大統領側近が立案し、外相は関与するが、経済関係の閣僚は排除されているとの報道もある。
プーチン大統領は13日に開いた安全保障会議で「ウクライナや欧米のパートナーと、どう関係を築くか一緒に考えよう」と語ったという。これまでより柔軟な発言とも受け止められる。
米国では、90年代にNATO拡大推進を訴えたブレジンスキー元大統領補佐官が、将来のウクライナは「EUに加盟してもNATOには加盟しないフィンランドのような国が望ましい」との考えを示す。ウクライナ暫定政権のヤツェニュク首相も、NATO加盟はわれわれの視野にはないと語り、ロシアとの緊張緩和を探っている。
外交による解決の余地は残っているのか。週明け後のロシアの出方が、危機の行方を大きく左右する。
(本社コラムニスト 脇祐三