デマの時代の民主主義
2016年07月04日 06:05
池内 恵
当たり前すぎることもしつこく言わなくてはいけない、デマの時代の民主主義においては、
「ルクソール事件」について再確認しましょう。
1997年11月17日、エジプトのルクソールのハトシェプスト女王葬祭殿で、「イスラーム集
団」が観光客を襲い、58名の外国人を殺害した。そのうち10人は日本人だった。
なお、エジプト人で殺害されたのは4名のみ。
遺跡の閉ざされた敷地で、丸腰の外国人を追い詰め、順に殺害し、刃物で切り裂いた。「日
本人である」ことなどもちろん助かる理由にはならなかった。 日本人の旅行者の多くは、新
婚旅行中のカップルだった。命乞いをする観光客たちを無慈悲にいたぶって殺害していった
様子が伝わる。
いうまでもなく、ルクソール事件は、9・11テロよりも、イラク戦争よりも、自衛隊派遣よ
りも、「イスラーム国」への対峙よりも、前のである。とっくの昔に日本人はジハード主義
のテロの対象になっていた。
当時、非常に大きく報じられたはずである。ただし、事件の意味については、適切に解説さ
れなかったと記憶している。
「かつてアラブ人(あるいはイスラーム教徒、等々)は親日であり、日本の何らかの政策に
よってテロの対象になった」などという言説は、基礎的な情報を踏まえずに行われているも
のであり、考慮に値しない。
しかし「値しない」と言って放置していると、ある時に熱に浮かされて、社会が誤った選択
をしてしまうかもしれない。
デマの時代の民主主義とは、このように、最低限の情報も踏まえずに嘘を言い切る、不満を
募らせた(小)エリートたちが、社会を奈落の底に導く危険を、常に秘めている。
【転載にあたっての付記(池内恵)】
この項目は、鈴木一人さんの「『デマ』時代の民主主義」に触発された応答として書かれた
ものです。最初の応答と併せてお読みください。アゴラへの転載のタイトルは「デマの時代
の民主主義」としてありますが、この用語は鈴木一人さんによるものなのでより詳細は、ぜ
ひ鈴木さんの「社会科学者として」やツイッターをフォローしてみてください。
編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2016年7月3日の記事を転載させていた
だきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。
池内 恵
東京大学先端科学技術研究センター准教授>http://agora-web.jp/archives/2020098.html
池内 恵(いけうち さとし、1973年9月24日 - )は、
日本のアラブ研究者、東京大学先端科学技術研究センター准教授。
専門は、イスラム政治思想。
(by wikipedia)