米国の「次」を読む
米国はいきなり同盟を破棄するわけではないはず
こうした状況に対し、米国はどう反応するのでしょうか?これについては先月、韓国メディア『東亜日報』(日本語版)が「米国務省が制裁違反を検討」と報じています。
米国務省、南北の連絡事務所設置に「制裁違反を検討」(2018/08/25 08:06付 東亜日報日本語版より)
もちろん、この記事もよく読むと、「韓国の行動が北朝鮮に対する制裁違反ではないか」との記者の質問に、ヘザー・ナウアート米国務省報道官が「否定しなかった」というだけの話であり、米国政府が公然と「韓国をセカンダリー・サンクションの対象にする」と述べたわけではありません。
つまり、米国政府としては、現時点で韓国の動きへの対処方針を明らかにしたわけではありませんが、ナウアート報道官らの反応を見るまでもなく、少なくとも米国政府が韓国政府の開城南北連絡事務所設置を歓迎していないことだけは間違いありません。
ただ、だからといっていきなり米韓同盟が破棄される、というものでもありません。
たしかに、ドナルド・J・トランプ大統領本人が何度も強調しているとおり、米韓合同軍事演習は次々と中止・延期となっており、トランプ氏の発言からは、「カネのかかる同盟は将来的に破棄したい」という思惑が見て取れることも事実です。
しかし、米軍はさまざまな装備品を韓国軍に提供していますし、軍事機密の共有なども行っており、今すぐ米韓同盟が消滅すれば、それはそれで米国側にも大きな打撃が生じます。現時点では、日本と米国が、何とか韓国をなだめすかして、「海洋同盟」側に慰留している状態だともいえるでしょう。
言うことを聞かなければムチをふるう
ただ、いきなり米韓同盟を破棄するという可能性はそれほど高くないにせよ、米国がある国に懲罰を加える手段は、別に軍事的なものに限られない、という点を忘れてはなりません。ずばり、米国は経済的な手段をもって、韓国に大きな打撃を与えることができるのです。
ただし、トランプ政権が中国に対して仕掛けているのと同じ制裁関税を韓国に適用することは、米韓FTAの関係もあり、簡単ではありません。米国も法治国家であり、外国との条約に公然と違反することは難しいからです。
しかし、米国にはもう少し簡単に、韓国経済を破綻させる手段があります。それが通貨を通じた制裁です。
米国財務省は半年に1度、「為替操作の実施状況に関する監視レポート(※英語)」を公表しています。このなかで、
- 米国に対する200億ドル以上の貿易黒字(a significant bilateral trade surplus with the United States is one that is at least $20 billion)
- GDPの3%を超える経常収支黒字(a material current account surplus is one that is at least 3 percent of gross)
- 12ヵ月間でGDPの2%以上の金額に相当する一方的な為替介入を継続的に繰り返していること(persistent, one-sided intervention occurs when net purchases of foreign currency are conducted repeatedly and total at least 2percent of an economy’s GDP over a 12-month period)
という3つの基準を設け、これらの要件に照らし、中国、日本、韓国、インド、ドイツ、スイスの6ヵ国を継続的な監視対象に指定しています。
金融政策を封じられる!
簡単にいえば、中央銀行が為替介入を行っていても、米国財務省としてはそれを把握しているぞ、という警告のようなものですね。
韓国は現在、失業率水準がジワリと上昇していて、経済的にも行き詰まりを見せ始めています。その原因といえば、文在寅政権が行っている「最低賃金規制」によるところが大きいのですが(詳しくは『雇用政策の失敗は経済の自殺:民間経済潰す韓国の最低賃金』)、雇用が崩れれば経済は失速します。
雇用を増やすためには金融政策(たとえば、利下げをしたり、おカネを増やしたりすること)が有効ですが、金融緩和をすれば韓国の通貨・ウォンの価値が下がり、為替相場では「ドル高・ウォン安」となってしまいます。そうなれば、米国から見て「それは為替操作だ!」とイチャモンを付ける材料となってしまうのです。
また、逆に韓国経済に対する信認が低下すれば、外国資本は韓国からおカネを引き揚げる可能性もあります。とくに、パニック的な「韓国ウォン売り」が発生すれば、それはキャピタル・フライトにもつながりかねません。
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まずは文在寅政権を「倒す」?
米国から見て、韓国は軍事同盟の相手国であり、かつ、北朝鮮と対峙しなければならないときに、直ちに韓国との軍事同盟を破棄するというのは、非現実的ではあります。しかし、それと同時に、金融という手段を使って非公然と韓国を「締め上げる」ことであれば、それほどハードルは高くないという点も事実でしょう。
実際、米国は世界の基軸通貨である米ドルを握っていますし、韓国のような「ソフト・カレンシー国」が米国の債券市場から締め出されれば、最悪の場合、国際的な生産活動が滞って、企業倒産が相次ぎ、経済はたちまち行き詰ってしまいかねません。
私が米国の大統領ならば、まずは金融面から韓国経済を締め上げるような軽い「ジャブ」を放つと思います。その意味で、韓国が開城連絡事務所の開設を強行するならば、10月に発表される「為替監視レポート」で韓国を「為替操作国」と認定するのは1つの可能性として考慮する価値はあるでしょう。
もちろん、いったん「為替操作国」に指定されてしまえば、その後、さまざまな分野に影響が波及するため、この「為替操作国認定」は、一種の「伝家の宝刀」であり、米国がそれを抜刀する可能性はそこまでは高くありません。
しかし、何も「為替監視レポート」で締め上げる必要はありません。たとえば、米国政府「子飼い」(?)の格付業者に韓国のソブリン格付を格下げさせれば、それだけで韓国の資金調達コストが急騰します。
何より、国民生活が苦しくなって、韓国国民が2016年に朴槿恵(ぼく・きんけい)政権を倒したような「ろうそく革命」で文在寅政権を倒してくれるようならば儲けものでもあります。
その意味で、当面の米韓関係については、「韓国が9月に開城連絡事務所設置を強行するかどうか」という点に1つのポイントがあることは間違いないといえるでしょう。