2021,04.10
文在寅が「万事休す」へ…! 韓国国民からも米中朝からも「見捨て」られた文政権の末路
武藤 正敏元駐韓国特命全権大使外交評論家プロフィール
ショックから立ち直れない文在寅
4月7日に行われた、ソウル・釜山の市長補欠選挙は与党「共に民主党」のソウル・朴映宣(パク・ヨンソン)候補と釜山・金栄春(キム・ヨンジュン)候補の予想を超える大敗となり、青瓦台、民主党はいずれもそのショックから立ち直れない状況が続きそうな雲行きである。
当面、文在寅氏の政府・与党の対応は、内閣改造と党執行部の総退陣のようであるが、国民の信頼を回復させるための妙案はない。政権としても経済の活性化と腐敗の撲滅が焦眉の急だと認識したようであるが、具体的にはこれまでの政策をより効果的・かつ速やかに実施するというくらいしか対案はなく、当面は現実を無視した北朝鮮との関係修復を模索する状態が続きそうである。
追い詰められた文在寅 photo/gettyimages文大統領は、姜ミン碩(カン・ミンソク)青瓦台報道官を通じ、「国民の叱責を厳重に受け止める」「より低い姿勢で、より重い責任感で国政に臨む」とのコメントを出した。そのコメントは、100字を超える程度の短いものであった。与党が圧勝した昨年4月15日の総選挙の翌日には500字を超えるコメントを発表し、「偉大な国民の選択」「真の民心」と述べ謝意を表していた。
いかなる失政があっても滅多に謝罪しない文大統領としては、このコメントの内容は大きなショックを受けたことを物語るものであろう。
不動産に関しても「積弊」という表現は使わず「腐敗」という単語を使い、多少は反省の色も出していた。
「謙虚な姿勢」が欠けていた、と…
与野候補の支持率の推移から、選挙運動の終盤時点で青瓦台はある程度敗北を予想していたと思われ、「今回負けることが来年の大統領選挙に役立つ」と強がりを言う幹部もいた。さらに政務首席秘書官室を中心に選挙敗北を前提として「不動産など主要政策課題を推進する方案を模索してきた」という。しかし、予想外の敗北で、「今回は何をしても容易でない」との悲観論も飛び交っているようである。
国政の運営基調に変化があるのか問われ、青瓦台の幹部は「今回の選挙を通じて現れた国民の切実な要求を実現するための努力は揺れずに続くだろう」「必ず挑戦課題を克服する」と述べたが、ここから国政の大きな変化は見通せない。
民主党では7日の選挙当日の午後10時に緊急最高委員会議を招集し、指導部の辞職と範囲、次期指導体制などの刷新案を巡り激しい討論をしたという。民主党内部では「党が主導したネガティブキャンペーンがむしろ政権審判論に火をつける格好になった」(重鎮議員)といった批判が出ていた。専門家の間でも民主党に「謙虚な姿勢」が欠けたことが一層大きな敗北となる結果を招いたとの反省がある。
そして4月8日午前国会で非公式オンライン議員総会を開催、「責任を痛感する」として、指導部が総辞職することを決定した。しかし、5月に予定される全党大会の日程繰り上げ、非常対策委員会転換など今後の方向性は何も出せない状態が続いている。
民主党が行った最大の失敗はネロナンブルの先頭に立ったことであろう。
文在寅政権の「ネロナンブル」
米国のニューヨークタイムズ紙は、「ネロナンブル」という言葉を韓国語の発音通りに紹介し、「私(ネ)がすればロマンス(ロ)、他人(ナム)がすれば不倫(ブル)」という由来も説明した。選挙結果は文政権の「ネロナンブル」に対する国民の不満の表れであり、文政権はレームダックに陥るというのである。
中央日報は、今回の選挙結果には「20代男性」の与党に対する圧倒的な反対が強く働いたと解説した。「ジェンダーイシュー」と「公正イシュー」が与党に背を向けたという。町の声も「国民の力が良いのではなく、20代男性を無視する民主党が嫌い」という。「不動産費用の負担で結婚は思いもよらない」とあきらめムードである。
不動産政策には政権のコンクリート支持層である40代も背を向けた。加えてチョ・グク元法務部長官はじめ、与党要人の偽善とネロナンブルが明るみに出ていることも大きく影響している。民主党の尹美香(ユン・ミヒャン)議員(前正義連理事長)の横領、参与連帯(ノムヒョン、ムンジェイン)の支持団体出身の金尚祖(キム・サンジョ)前青瓦台政策室長のマンション室料の不当な引き上げなどが明らかになっている。
文在寅政権の不動産政策は税金爆弾によって不動産所有者に不動産を手放すよう圧力をかける政策から、公共部門を通じた不動産の追加供給に軸足を移そうとしているが、そこに新しい金儲けの糸口を探す政府与党の幹部がいる限り国民の協力は得られない。
内外で批判されるネロナンブルを打破し、政権幹部の不正を庇うのではなく、より厳しく罰しない限り国民は背を向け続けるであろう。それは政府・与党の人々に利得の機会を黙認することで忠誠を得てきたこれまでのやり方を変えるしかない。
文在寅「責任論」は避けられない
青瓦台も文在寅氏のレームダック化は避けられないとの雰囲気を感じているようである。与党の核心人物は「文大統領が与党の過ちで行われる補欠選挙に候補を出すことを黙認したことから責任があるのではないか」と述べたそうである。文在寅氏責任論が出るということは、党が文在寅氏と離れつつある実態を反映しているのかもしれない。
そうした中、文在寅政権の体制立て直しがはじまろうとしている。まず内閣改造が行われよう。丁世均(チョ/ン・セギュン)首相は、来週イラン訪問(11-13日)直後に辞意を表明する予定である。後任としては金富謙(キム・ブギョム)前行政安全部長官や朴智元(パク・チウォン)国家情報院長の名前が挙がっている。
韓国版ニューディールなど経済回復に力を集中するという趣旨で洪楠基(コ・ナムギ)経済副首相や金栄珠(キム・ヨンジュ)前韓国貿易協会会長の可能性もあるただ、金会長は固辞しているようであり、洪副首相はこれまでの経済政策が失敗してきている。
それと共に5、6名のトップを入れ替えることが取りざたされている。今回の敗北に大きくかかわった卞彰欽(ビョン・チャンフム)国土交通部長官は交代の可能性がある。既に辞意を表明している。ただ、卞が留任したのは与党の候補が善戦すれば、卞氏反対の世論をもみ消すことができるとの青瓦台の判断があったためだという。
世論の動向を読み切れない、青瓦台参謀陣の内弁慶ぶりを示すエピソードではないか。これもネロナンブル的心理から出たものではないか。
このほか、月城原発の経済性評価で問題となった産業通商資源部の成允模(ソン・インモ)長官などの名前が挙がっている。
文在寅はますます南北対話に執着
ただ、内閣改造が具体的な政策の大きな変更に結び付くことはない、というのが大方の見方である。文在寅大統領の性格からいって「国政哲学を変えることはほぼない」という。
これまでの所得主導政策の失敗でも、その政策を守ってきている。青瓦台の事情に明るい与党の要人は「不動産供給や防疫対策など計画した政策の成果を早く出すこと以外に妙案はない」と述べている。
文大統領は南北対話の進展を政権のレガシーとしたいであろう。そして南北首脳会談の実現で局面の転換を試みるのではないか、と見られている。ただ、北朝鮮が文在寅氏の呼びかけに応じてくるだろう、との見方はほとんどない。
北朝鮮が文在寅政権に期待するのは、制裁解除問題で北朝鮮に有利な交渉が行われるよう、米国を説得することである。19年2月のベトナムにおける米朝首脳会談で、金正恩氏は文在寅氏の言葉に乗せられ、希望を持ってハノイに入ったが、その期待は完全に裏切られる結果となった。
それ以来北朝鮮は文在寅氏を事実上無視するばかりか、文在寅氏に対して攻撃的な言葉を浴びせ続けてきた。1月の朝鮮労働党大会は核放棄の意思がないことを公に宣言するような大会でもあった。
しかし、米国バイデン政権の北朝鮮政策の目標が「北朝鮮の非核化」であることは明白である。ホワイトハウスのサキ報道官は4月7日(現地時間)定例記者会見で記者の質問に答え、「朝鮮半島の非核化が確固たる目標であり、もちろん制裁を今後も履行していく」「非核化に進む道につながっているという前提下に、一部の外交的方式(対話ではない)も準備ができている」との原則を再確認した。
文在寅氏が米国をいかに説得しても、非核化に前進しない限り、対北朝鮮制裁の緩和、撤廃を行う可能性はほぼないといっていいだろう。北朝鮮は文在寅政権の末期に入り米国との関係もしっくりいっていないことも熟知している筈である。今後とも韓国をバッシングし、無視することになろう。
現実を見ない文在寅
文在寅政権は、東京オリンピックの機会に日米韓朝4か国の首脳会議を開き、北朝鮮との関係改善のきっかけにしたいと提案していた。そうした中、北朝鮮は4月7日、東京オリンピックに参加しないと表明した。
北朝鮮は昨年以来、中朝国境を封鎖し、中国との貿易をほぼ止めても新型コロナの流入を防ごうとしてきた。その北朝鮮が世界各国から人々が集まる東京オリンピックに参加するとはとても考えられない。
加えて、金正恩氏が関心を有するのはバイデン米大統領との会談であり、そこに日本や韓国が加わることは望んでいない。
北朝鮮の不参加の宣言を受けてもあきらめないのが文在寅政権である。文在寅政権は青瓦台で4月8日、ユ・ヨンミン大統領秘書室長が主催して国家安全保障会議常任委員会を開催、東京オリンピックを「平和のオリンピック」とし、北朝鮮に対して最大限参加することを説得することにした。青瓦台はオリンピックまでにまだ時間があることから、北朝鮮が翻意する可能性に期待をかけており、最大限多くの条件を整えて参加を説得してみたい、と考えているようである。
しかし、東京オリンピック不参加はこれまでの北朝鮮の行動から当然予想された行動である。これを覆せると考えるのは現実を見ない文在寅政権くらいのものであろう。北朝鮮に非核化の意思がないことは明らかであり、バイデン政権がさらなる圧力をかけてくるのを避けようと文政権はますます、米中の間に立って非現実的な行動を続けるのであろう。
日韓関係の改善も望み薄
韓国では、政権末期になると支持率の回復を狙って反日カードを切ってくる、というのが日本での通説である。しかし、韓国人の多くは以前のように日本に対し感情的な反発はしなくなっている。したがって、反日カードを切ってもそれによって支持率の上昇にはつながらなくなっている。
李明博元大統領の竹島上陸や天皇陛下に対する不適切な発言は、支持率アップのためではなく、日本が慰安婦問題などで李明博氏に配慮を示さなかったことへの不満の表れである。
そうしてみると文在寅政権は、文在寅氏による日韓関係改善の呼びかけに答えていないことへの不満の吐露として日本に厳しい姿勢を示してくるかもしれないが、それは韓国で文在寅氏の支持回復にはつながらないであろう。むしろ日韓関係を改善しなければいけないのではないかとの声が強まり、次期政権では揺り戻しがあるかもしれない。
しかし、韓国でも両市長補選の敗北によって日韓関係の改善が遠のくとの見方が多い。ソウル大学国際大学院の朴(パク)チョルヒ教授も「あと任期を1年ほど残してレームダックを前にしている日本に先に手を差し出したり、賭博に近い交渉に臨んだりする可能性はほぼない」と指摘している。
何もできない文在寅政権
中央日報は「複雑に絡まった懸案を任期5年目まで引っ張ってきたあげくレームダックを迎え、文政府の様々な外交的課題は結局解決されないまま残される可能性が高まった」としている。
これは外交的課題だけではなく、北朝鮮と中国への思い入れに明け暮れて外交の機会を逸し、国内的にはネロナンブルに明け暮れで民心を失った結果だと言えよう。
これを改めない限り、文在寅政権の再生はないだろうが、これは文在寅政権としては飲めない選択である。今後1年間何もできずイライラが続くのではないか。