トランプ2.0に戦々恐々の韓国、尹錫悦大統領が「8年ぶりのゴルフ練習再開」より先にやらなければならないこと

韓国の尹錫悦大統領(写真:ロイター/アフロ)
接戦が予想されていた米国の大統領選挙がドナルド・トランプ共和党候補のワンサイドゲームであっけなく終わってしまい、全世界が「ストロングマンの帰還」に緊張している。韓国も例外ではない。さらに強まる保護貿易主義に韓国経済界が緊張しており、在韓米軍防衛費分担金の10倍引き上げを要求し、在韓米軍の撤収まで取り上げてきたトランプ大統領の帰還がもたらす安保危機に対して、韓国国民が大きな警戒心を示している。
【写真】尹錫悦大統領は大の野球ファンとして有名だが…。昨年4月1日、韓国プロ野球の開幕戦では始球式に登場、満面の笑みで観客に手を振った
韓国メディアは今回の米大統領選挙に際して、終始ハリス民主党候補の優勢を予測する失敗を犯した。この誤判については韓国メディア内部では、民主党偏向的な米国の主流メディアの習性を理解できないまま、彼らの選挙分析をそのまま引用・報道した結果だという自省の声が出ている。
だが、筆者はこれに加えてトランプ氏の当選を懸念する韓国人としての本音が反映された結果だと思う。米大統領選挙に対する韓国の世論調査では、常に回答者の7~8割がトランプ氏よりハリス氏の当選を望んでいるという結果が出た。韓国人にとっては、韓国経済の繁栄と安保の根幹となる韓米同盟さえ取引の対象とみなすトランプ氏の復帰は、それだけ恐ろしくて憂慮される結果であるからだ。
■ 韓国経済に巨大ショックとなる可能性
来年1月20日、ドナルド・トランプ次期大統領の就任と共に始まる「トランプ2.0」は、より強い保護貿易主義、より強い米国優先主義政策を展開すると予想されるだけに、米国を最大の輸出相手国とする韓国経済に大きな脅威として迫ってきている。
まず10~20%普遍的基本関税と中国産には最高60%高率関税を公言している“関税爆弾”が現実化すれば韓国経済に大きな打撃になるのは必至だ。国策研究機関である「対外経済政策研究院」は、輸入製品に普遍的基本関税が20%賦課される場合、対米輸出額は42兆ウォン(約4兆7000億円)、総輸出が最大62兆ウォン減り、実質国内総生産(GDP)が最大0.67%減少する可能性があると予測している。民間シンクタンクの「現代経済研究院」は、関税戦争が世界に拡散すれば韓国経済成長率が多ければ1.1%ポイント下落する可能性があると分析した。
ここにトランプ氏が候補者時代に「グリーン詐欺」と猛非難したインフレ削減法(IRA)とCHIPS法の廃止が現実になれば、韓国の主力産業である半導体、電気自動車、バッテリー産業などが大きな損失を受けることになる。
バイデン政権時代、韓国のサムスン電子をはじめとする現代自動車、SKハイニックス、LGエネルギーソリューションなどが補助金の約束を受け、米国現地工場を新設した。サムスン電子は440億ドルを投資してテキサス州に新設半導体工場を建設中であり、SKハイニックスはインディアナ州の新設工場設立に38億7000万ドルを投資しており、現代自動車とLGエネルギーソリューションはジョージア州の電気自動車専用工場とバッテリーセル合弁工場を設立するのに47億ドルを投資するなど、昨年1年間、韓国企業の海外投資の43%が対米投資だった。
保守派の中央紙『朝鮮日報』は、「これら韓国企業が米国政府から受け取ると予想される補助金が12兆ウォン程度だが、トランプ氏がもし補助金を廃止する場合、韓国企業は詐欺にあったも同然だ」と怒りを表わした。
■ 在韓米軍の駐留費負担増を求められるのは必至
トランプ2.0の誕生は、韓国の安保環境にも深刻な脅威になるものと予想される。
トランプ氏は1期目の政権で、「韓国が防衛費を十分に納めなければ、在韓米軍を撤収しなければならない」と言及したことがある。当時、トランプ氏は既存分担金の5倍である年間50億ドル(約7兆ウォン)まで引き上げることを要求し、在韓米軍の撤収や削減を示唆したことがある。これにより交渉が長期間膠着したが、結局バイデン政府スタート以後の2021年、13.9%引き上げ(1兆1833億ウォン)に合意した。
最近、韓国政府はトランプ氏の再執権に備えてバイデン政権と2026年以後の5年間の防衛費分担金協定(SMA)の早期妥結に成功した。これによって、既存の8.3%を引き上げた年間1兆5192億ウォンに確定されたが、トランプ氏の帰還と共に再交渉の可能性が高まっている。
韓国メディアは、この過程で最悪の場合、韓国の安保に絶対的な在韓米軍の削減、ないしは撤収が現実化する恐れがあると憂慮している。トランプ氏は政権1期目の時、「在韓米軍撤収」を取り上げたが、側近たちから「2回目の任期に優先順位にしよう」と止められたという説がある。
トランプ氏は大統領から退いた後の2021年11月、米マスコミとのインタビューで「政権1期目で後悔すること」として、「韓国から防衛費分担金50億ドルを受け取れなかったこと」と話し、今年10月には「韓国はマネーマシン(金持ちの国)であり、私がホワイトハウスにいたら防衛費分担金として100億ドル(14兆ウォン)を受け取ったはず」と断言した。現在確定している分担金のおよそ10倍の額だ。
進歩系の中央紙『韓国日報』は、「トランプが在韓米軍駐留費だけでなく韓米間の連合訓練費用や戦略資産の韓半島展開において一つ一つ韓国政府から金を受け取るだろう」と展望し、「血盟を絞り出している」と批判した。
■ 「米朝交渉」から韓国がスポイルされる恐れ
韓国の安全保障にとって防衛費分担金よりも深刻な問題は、北朝鮮の金正恩委員長との親交を誇示したトランプ氏が大統領主任後、電撃的に米朝首脳会談を推進する可能性が高いということだ。
もし、トランプ氏と金正恩氏との「北朝鮮核交渉」が再び始まり、その過程で韓国が排除されれば、韓国としては非常に当惑する状況に直面する恐れがある。
韓国の意志とは裏腹に、トランプ氏が核廃棄ではなく核凍結、具体的には核兵器生産実験の中止、ICBM開発の中止などの見返りに、北朝鮮に制裁緩和を含む経済的支援などを提供する取引をする可能性もあるという疑念だ。
一部では、承認欲求の強いトランプ氏がノーベル平和賞受賞などを狙って、金正恩氏と電撃的に合意に至る可能性もあると見ている。
すでに文在寅・前大統領はトランプ氏の当選直後、「中断していた米朝対話の再開と韓半島の平和を期待する」という書き込みをSNSに掲載し、トランプ氏に北朝鮮との直接コミュニケーションに乗り出すよう勧めている。
■ 「トランプ氏との付き合い方、安倍元総理に学べ」
今は避けられなくなった「トランプリスク」克服のために、韓国のメディアからは専門家たちの多様な提案があふれている中で、「トランプ氏を扱うことは日本の安倍元総理に学ぶべき」という主張も目につく。
「個性が強くて称賛が好きなトランプ氏のような指導者とは個人的関係が肝心だ。日本の安倍元首相はトランプ氏が当選するやいなや、金の装飾が施されたゴルフドライバーをプレゼントし、トランプ氏を手厚くもてなした。尹大統領がそのような関係を築くなら、金正恩氏との危険な取引や在韓米軍の撤収、韓国に対する貿易制裁と不利益のようなことを防ぐこともできるだろう」(『朝鮮日報』社説「トランプ2期の経済、安保衝撃波が来るだろうが機会にしなければならない」)
「(トランプ大統領との首脳外交の)模範答案として安倍晋三元日本首相が挙げられる。安倍元首相は2016年、トランプ氏が大統領に就任する前に米国を直接訪れ、金でメッキされたゴルフクラブセットをプレゼントしたが、このおかげで日本がトランプ1期の時に多くの恩恵を受けた。梨花女子大学のパク・ウォンゴン教授は、“(ゴルフが好きなトランプ氏に合わせて)尹大統領がゴルフを学ぶような積極性も必要だ”と述べた」(ソウル経済記事「尹、ゴルフを速成で学んでもいい…トランプ2.0」)
これと関連して韓国大統領室では「尹錫悦大統領が最近、周辺の助言により8年ぶりにゴルフ練習を再開した」と発表し、米韓首脳会談に向けた準備に入ったことを示唆した。
尹錫悦政権はバイデン大統領の米国時代の米韓関係について、「歴代最も強力な同盟関係」と自賛したが、いまや「同盟の時代」は去り、「取引の時代」が戻ってきた。韓国の進歩系メディアは、尹錫悦政権の「価値外交」(民主主義の価値を共有する国々との連帯を重視する外交政策)はトランプ時代には通用できないとし、外交路線の変更を強く求めている。「取引の達人」を相手にしなければならなくなった検事出身の尹錫悦大統領は、ゴルフだけでなく、ビジネスの速成講座にも取り組まなければならないのかもしれない。