

ハインリッヒ・シュリーマン=ドイツ人。考古学者。19世紀半ば世界各地を旅する途中、当時清朝だった中国と幕末の日本を訪れた。訪日は1865年(慶応元年)。その後、ギリシャ神話に出てくる伝説の都市トロイアが実在することを発掘によって証明した。
「シュリーマン旅行記 清国・日本」より
快適な旅のあと、われわれは六月一日朝六時、日本で最初の、小さな岩ばかりの島が見える地点に到達した。私は心躍る思いでこの島に挨拶した。これまで方々の国でいろいろな旅行者に出会ったが、彼らはみな感激しきった面持ちで日本について語ってくれた。私はかねてから、この国を訪れたいという思いに身を焦がしていたのである。
八王子・宝顕寺
われわれは高名な宝顕寺で休憩した。寺は、針葉樹、椿、シュロなどの美しい木立ちに囲まれている。
寺は木造で、屋根は茅で1メートルの厚さに葺かれ、田舎にある日本の寺がそうであるように、屋根の棟にそって百合の花(*イチハツ?)が植えられている。境内に足を踏み入れるや、私はそこに漲るこのうえない秩序と清潔さに心を打たれた。大理石をふんだんに使い、ごてごてと飾りたてた中国の寺は、きわめて不潔で、しかも頽廃的だったから、嫌悪感しか感じなかったものだが、日本の寺々は、ひなびたといってもいいほど簡素な風情ではあるが、秩序が息づき、ねんごろな手入れの跡も窺われ、聖域を訪れるたびに私は大きな歓びをおぼえた。
〈中略〉
どの窓も清潔で、桟には埃ひとつない。障子は裂け目のない白紙がしわ一つなく張られている。僧侶たちはといえば、老僧も小坊主も親切さとこのうえない清潔さがきわだっていて、無礼、尊大、下劣で汚らしいシナ(中国)の坊主たちとは好対照をなしている。