コラム:ホルムズ海峡でタンカーの「闇航行」増加、原油市場が不透明化
2026年6月5日午後 12:09[ロンドン 4日 ロイター] - 中東のエネルギー輸送の要衝ホルムズ海峡を抜ける原油タンカーの流れは、ここ数週間で徐々に勢いを増している。取引従事者たちが航行の際に隠密的な手法を採用し始めたためだ。この動きにより、湾岸地域に滞留していた膨大な石油在庫の一部がようやく市場に出始めている。とはいえ、これが緩やかな正常化の兆しというわけではない。むしろ対イラン紛争後に生じるとみられる、不透明で分断されたエネルギー市場の姿を先取りしている。紛争開始から4カ月余りが経過した今も、米国とイランは戦争を正式に終結させ、ホルムズ海峡を全面的に再開させる合意に至っていない。ホルムズ海峡のほぼ全面的な封鎖により、日量1300万バレル超の原油が湾岸地域に閉じ込められた。この結果、産油国は油田や製油所の操業停止を余儀なくされ、供給不足と経済的な打撃が主要輸入国に広がった。現在もホルムズ海峡の通航量は紛争前の水準を大きく下回っている。LSEGやケプラーなどのデータによると、紛争開始以降、ホルムズ海峡を出入りしたタンカーは1日平均わずか3隻程度で、平時の約10分の1にとどまっている。<闇航行が増加>ペルシャ湾内でタンカーに積まれたままになっている原油の量を調べると、タンカーのホルムズ海峡通過のペースは水面下で加速していることがうかがえる。その背景には、海峡通過の前後で自動船舶識別装置(AIS)を停止し、海峡通過の際に追跡を避けて湾外に出る船舶が増えていることがある。これは長年にわたりイランが西側諸国の制裁回避のために利用してきた手法だ。調査会社ボルテクサによると、5月には湾岸地域から出港した積載タンカーの約65%が「ダークモード」、つまりAISを停止した状態で航行していた。こうした手段がいかに広がっているかが分かる。そのような不透明な運航の横行で、原油は輸送量や仕向け地が把握しづらくなり、需給動向の分析が難しくなったため、別の指標が重要になっている。重要指標の1つが、湾内でタンカー上に積み置かれた「海上原油在庫」の量だ。ケプラーのデータによると、海上原油在庫は3月22日に記録した1億8400万バレルのピークから、今週は約1億4800万バレルまで減少した。つまり、日量平均約50万バレルのペースで在庫が減ったことになる。
しかも、この在庫減ペースはこの1カ月で加速している。ロイター・オープン・インタレスト(ROI)の分析に基づくと、5月初め以降の在庫減少量は日量約71万バレルに達しており、低い水準が続いているとはいえ、湾外への原油流出は徐々に増加している。もっとも、これらの「闇航行タンカー」がどのルートを通っているのかは依然として不明だ。ただ、多くはイランが指定した航路を利用しているとみられる。イランはパキスタン、インド、中国、日本などアジア諸国との二国間協定に基づき、限定的な通航を認めているとされる。安全な通航の見返りとして、一部の船舶がイランに通航料を支払っている可能性もある。また、オマーン沿岸寄りのルートを利用している船舶もあるとみられ、その場合は米海軍が暗黙あるいは直接的に支援している可能性がある。ただし状況は依然として流動的だ。米国との交渉が行き詰まれば、イランはいつでも海上輸送への統制を強化できる。
<真の回復にはほど遠く>3カ月以上に及ぶ深刻な経済的な混乱を経て、原油は産油国にとっても、アジアの輸入国にとっても、ますます重要度が増している。しかし、市場の持続的な回復にはホルムズ海峡を巡る状況の安定化と予見可能性の向上が不可欠だ。産油国は航行ルートの安全が保証されない限り輸出を再開しない可能性が高い。大きな制約となっているのは物流だ。原油を積んだタンカーが湾外へ出るだけでなく、空船が湾内へ戻ってこなければならない。空船の流入が滞れば、陸上タンクの貯蔵能力が限界に達し、生産再開ができなくなる。つまり「満載船が出ていき、空船が戻る」という正常な循環は、まだ十分な規模では回復していない。船主や傭船会社は、依然として船舶が湾内に閉じ込められるリスクを警戒し、保険料も高止まりしている。仮に政治的な合意が成立し、ホルムズ海峡が公式に再開されたとしても、市場が以前の状態へ完全に戻る保証はない。