ミッキー安川(本名・安川實)さんが亡くなった。1月18日午後5時ごろ、筆者の携帯にマット安川さんから「本日午後2時55分、父が亡くなりました。(去年12月23日に)入院してから、もって3~4日といわれていたのですが、もともと心臓が強いので、それよりも20日以上頑張りました」という電話があった。
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記事本文の続き 筆者は、一瞬、自分の耳を疑った。あのミッキー安川さんが亡くなったなんて、どうしても実感としてとらえられないのである。初めて、ミッキーさんと会ったのは、2005年3月、筆者が新潮社から『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』を上梓してしばらくしてからのことだった。そのころ、筆者は職業作家になることを考えていなかった。右翼の理論誌『月刊日本』の南丘喜八郎主幹から、「ミッキー安川さんが佐藤さんに関心をもっている。こんどラジオにでてくれないか」と頼まれ、お受けした。
■「善人か、悪人か?」
昼の番組だった。ミッキーさんと筆者の視線があった。お互いに視線を離さない。そして、ミッキーさんがこう言った。「あんたいったい、善人か、悪人か?」
筆者は即座に、「悪人です。東京地方検察庁特別捜査部に捕まったくらいですから」と答えた。
そのときミッキーさんは、「そうか」と答えた。その瞬間、ミッキーさんの瞳がとてもやさしくなった。後で聞くと、ミッキーさんは、筆者が「悪人ではない」と言い張り、事件についていろいろ弁解すると想定していたらしい。そうしたら、やりこめてやろうと思っていたら、いきなり筆者が「悪人です」と答えたので、「こいつは面白い奴だ」と思ったそうだ。それから、よくRFラジオ日本の番組に出演してくれと声をかけらるようになった。
ミッキーさんは、英語に堪能で、アメリカ事情について実に明るい。それも日本の外交官や商社員がほとんどいない中南部のアメリカ人の気質についてよく知っている。ミッキーさんにこう言われたことが印象に残っている。「佐藤さん、インテリの感覚でアメリカをみたらダメだぞ。あの国を支えているのは、国際情勢なんか全然わからない中南部の田舎の連中なんだ。こいつらはUFO(未確認飛行物体)が存在すると信じている。オバマ大統領が登場しても、人種的偏見をもっている。同時にとても温かいところがある連中だ。俺はアメリカに行って、日本人としての愛国心を自覚するようになった」
■左とか右じゃない
ミッキーさんの深夜の番組では、零時の時報が鳴るとともに、番組の参加者全員が立ち上がって「君が代」を歌う。ゲストでも、例えば菅直人さん(現副総理兼財務相)は、「歌いたくない」と言う。そこでミッキーさんは、「それじゃ歌わなくていいけれども、いっしょに立ってくれ」と言ったら、菅さんは立ったまま君が代を聞いていたという。ミッキーさんは、菅さんを非難せず「自分の信念を通すのはいいことだ」と言っていた。
ミッキーさんは、左右のレッテル張りを嫌った。リスナーから、「佐藤さんはどうして『週刊金曜日』のような左翼雑誌に書くのですか」というファクスでの質問があった。ミッキーさんが「左とか右じゃなく、金曜日の佐高信社長は、立派な人だぞ。いいじゃないか」と答えた。ミッキーさんは、発言と行動が分離しない人を好んだ。その点で、菅さんや佐高さんはミッキーさんから合格点をつけられたのである。
ミッキーさんは、毎年クリスマスにチャリティーディナーショーをやる。昨年、12月23日、「ニュー山王ホテル」で催しが行われた。このホテルは米軍の施設なので、一般の日本人は立ち入ることができない。アメリカとの人脈が強いミッキーさんだから可能だった。そして、このディナーショーの直前にミッキーさんは倒れた。文字通り、生涯を現役で通した。ミッキーさん、安らかに眠ってください。合掌。
(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS)