経済成長の結果?それとも統計マジック?
「4万ドル超え」に執着する理由
趙 章恩
2014年4月2日(水)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20140401/262122/?P=1&ST=world
韓国銀行(中央銀行)が3月26日「2013年国民経済計算」を発表した。これは韓国の1年間の経済成長を把握するための統計である。国民経済計算によると、韓国の国内総生産(GDP)は2012年の1兆2224億ドル(約128兆円)から2013年の1兆3043億ドル(約137兆円)に増えた。
国内総生産に「海外で韓国人が稼いだ所得」を足して、人口の数で割った1人当たり国民所得(GNI)も、2012年の2万4696ドル(約259万円)から2013年の2万6205ドル(約275万円)に増大。史上最高額を記録した。
韓国の1人当たり国民所得は2007年に初めて2万ドルを超えた。金融危機の影響で2009年の国民所得は1万8000ドルに減ったものの、2011年以降は2万ドル台を維持している。
韓国では国民所得を非常に重要な経済指標として考えている。日本、米国、ドイツ、カナダなど先進国は1人当たり国民所得が4万ドルを超えている。そのせいか、韓国政府は「韓国が先進国の仲間入りした」ことを国民所得で示したいようだ。国民所得への執着の強さは、歴代大統領の経済政策に必ず「国民所得4万ドル時代を切り開く」というフレーズが含まれていることにも現れている。韓国メディアの経済ニュースには、「国民所得が2万ドル台で足踏み状態である。打開策が必要だ」という文章が必ずと言っていいほど登場する。
朴槿恵大統領は就任2年目を迎える2014年1月、財界要人らとの新年あいさつ会で、1人当たり国民所得4万ドル(約420万円)の 早期実現を目指すと強調した。朴大統領は2014年2月に「経済革新3カ年計画」を発表し、(1)任期が終わる2017年までに1人当たり国民所得3万ドル(約315万円)を達成して4万ドル時代へ一歩近づく、(2)雇用率70%を達成する(現在は64%前後)、(3)潜在経済成長率を4%台に引き上げることを目標に掲げた。
朴大統領は、国民所得3万ドルが以下の施策で達成できると説明した。(1)公共企業の改革をはじめとする施策を打ち、企業の取引をより公正・透明にすることで体質を改善する。(2)創造経済(既存産業とITの融合による新しいビジネス、既存産業の隙間を狙ったアイデアビジネス)で雇用を増やし基本賃金を上げる、(3)所得が増えると消費も増え、輸出だけでなく内需も活性化し経済成長につながる。
◆GNIの増額は算定方式が変わっただけ
韓国ではこれまで「1人当たり国民所得が増える=経済成長した証拠」として受け止められてきた。だが、今回は違う。国民所得が増えたのは経済成長によるものではないと批判する声が後を絶たない。
韓国銀行は2013年から、国民経済計算基準「2008SNA」に則って国民所得を計算するようになった。新基準で計算した数値は、これまでの方式よりも値が大きくなる。「2008SNA」は国連やIMFなど国際機構が合意して公表したもので、韓国銀行が恣意的に算定方式を変えたわけではない。しかし、韓国銀行は、統計の算定方式が変わったために国民所得が増えただけなのに、朴大統領が目指す「2017年1人当たり国民所得3万ドル」に近づいたと宣伝している。こうした韓国銀行の姿勢に対し、朴政権を擁護する保守派のメディアですら、以下のように厳しく批判する記事を書いている。
「国民所得2万6205ドルはウォン高と統計マジックのおかげで増えただけ」
「国内総生産や1人当たり国民所得といった統計の値は先進国に近づいているが、雇用もなく賃金も低いままなのが問題。企業が利益を得た分、個人にも利益が回らないと経済成長は続かない」「企業は利益を出しても、現金を抱え込んだままで何も投資をしない。このままでは日本のような長期不況になる。賃金を上げるか、株の配当額を上げる必要がある」
韓国メディアは、韓国銀行が韓国の経済状況を正確に把握できる調査結果を発表するよう求めている。韓国銀行は韓国の金融政策を担う銀行だけに、「韓国経済の実情を把握できる統計を発表して改善策を考えるべき。統計マジックで韓国経済が成長しているかのように見せて喜んでいてはだめ」と指摘する。韓国のコミュニティサイトやTwitterでも韓国銀行の発表を疑問視する声が相次いだ。「国民所得2万6205ドルは何かの間違いではないか」「所得の格差が開きすぎて平均値が上がっただけなのか。国民所得2万6205ドルは高すぎる」
◆1人当たり可処分所得はほとんど伸びず
韓国銀行は、「1人当たり国民所得2万6205ドル」を強調するが、同じ資料にある世帯人員1人当たり可処分所得(PGDI)を見ると、韓国経済の異なる姿が浮かび上がる。世帯人員1人当たり可処分所得は、国民所得から政府と企業の所得を取り除き、純粋に個人の所得だけをカウントしたものである。韓国の2013年世帯人員1人当たり可処分所得は1万4690ドル(約154万円)で、1人当たり国民所得の56%程度である。1人当たり国民所得に占める可処分所得の割合は2007年の63%から、2012年の57.9%へだんだんと減っている。企業と政府は儲かっても雇用が伸びず賃金も低いままなので、個人の暮らしは厳しくなっていることがわかる。韓国銀行の資料によると、米国、日本など先進国の1人当たり国民所得に占める可処分所得の割合は64%~74%だ。
世帯人員1人当たりの可処分所得は2009年以降年平均1.8%しか伸びていない。韓国銀行が発表した消費者物価上昇率は2010年3.0%、2011年4.0%、2012年2.2%だった。2013年の消費者物価上昇率は1.3%だが、肌で感じる物価上昇率は10%前後。統計上は1~2%程度でも、農産物が安くなった一方で加工食品や光熱費、教育費、交通費が値上がりしたので、肌で感じる消費者物価上昇率はもっと高い。物価高を考えると、可処分所得は減っているのも同然だ。そのせいか個人消費増加率も2012年の1.9%から2013年の2.0%へと0.1ポイント増えただけだった。韓国メディアは、日本はアベノミクスで賃金のベースアップを果たしたと大々的に報じた。記事のコメント欄には「羨ましい」という書き込みがあふれた。韓国政府は国民所得よりも国民の可処分所得がいくら増えたかを重視すべきかもしれない。そもそも国民所得が何万ドルなのかを巡って政府機関とメディアが大騒ぎすること自体、韓国がまだ開発途上国であることの証拠ではないだろうか。
