
独、自由貿易で日本に秋波 メルケル氏3年ぶり来日
2019/2/5 2:00
ドイツのメルケル首相が4日、約3年ぶりに来日し、安倍晋三首相と約50分間会談した。これまで中国を優先して日本を素通りしがちだったが、米国が保護主義に傾倒するなかで自由貿易を守る連携先として日本に秋波を送る狙いがある。日本と同じ製造立国として、次世代の競争力を左右する人工知能(AI)やデータの分野で足並みをそろえる。
安倍首相は会談の冒頭で「日本のためだけに遠路はるばるお越しいただいたことを大変うれしく思う」と歓迎した。
メルケル氏は2005年の首相就任以来、中国に11回訪れた。来日は今回でようやく5回目だ。ドイツ側は「日本とは首脳レベルで解決しなければならない問題がない」と説明するが、経済成長で存在感を高める中国にアジア外交の軸を移してきた面は否めない。
ドイツが日本に再び目を向け始めたのは、これまで輸出大国としての発展を支えてきた自由貿易体制が大きく揺らぎ始めたためだ。
欧州にとって最重要のパートナーである米国はトランプ政権の発足後、中国だけでなく欧州連合(EU)にも鉄鋼などの関税引き上げを突きつけた。すべてをディール(取引)の材料とみて相対で譲歩を迫る手法は欧州が重視するルールに基づいた秩序とは相いれない。
関係を強化してきた中国は同国に進出したドイツ企業などに技術移転を強要する。中国当局によるスパイ活動への警戒も強まっており、不信感も漂う。メルケル氏は会談後の共同記者会見で中国に「そう簡単に物事を進めてもらっては困る」と述べ、けん制した。
世界経済をけん引してきた主要7カ国(G7)を見渡しても、英国のメイ首相はEU離脱を巡り国内政治が混乱しており、フランスはマクロン大統領の求心力が低下している。トランプ政権と対等に意見交換できる首脳は限られる。

安倍首相はG7の首脳でメルケル氏の次に在任期間が長い。トランプ大統領と対立も辞さないメルケル氏との間で安倍首相はこれまでも一定の「バランサー」の役割を果たしてきた。
両首相は経済連携協定(EPA)の発効を踏まえ、経済面の関係強化で一致した。日欧EPAは世界の国内総生産(GDP)の3割近く、貿易額の4割近くを占める巨大な自由貿易圏。ドイツは保護主義が広がる世界への「重要なシグナル」(政府関係者)になると期待する。
多国間主義や市場経済、自由貿易といった価値観を共有する日本との関係は、今後の世界貿易機関(WTO)改革などを見据えたうえでも欠かせない。メルケル氏は会談で「日本はドイツと共にルールに基づく秩序を重んじる代表的な国だ」と期待感を示した。
ドイツにとってさらに重要なのはデータやAIの分野での日本との連携だ。次世代の競争力を確保するためにはインターネットなどの膨大なデータをいかに収集し、それを精度の高いAIの開発にどうつなげていくかがカギとなる。日独はこの分野で米中に出遅れており、巻き返しが課題だ。
メルケル氏は会談で、安倍首相が意欲を示す「信頼ある自由なデータ流通網」の構築を後押しする考えを表明。中国によるデータの囲い込みをにらみ足並みをそろえる。
もちろん、日独にとって最大の貿易相手である対米、対中関係の重要さは変わらない。日独の接近の目的は米中を敵に回すことではなく、注意を引き寄せることにありそうだ。米国をつなぎ留め、中国を引き寄せるためのルール作りをどう進めるか。日独首脳会議はその出発点となり得る。
(ベルリン支局 石川潤、林咲希)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40888130U9A200C1SHA000/