平壌で「買い占め」発生…金正恩氏の不在中に混乱広がる
高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト 4/26(日) 5:02金正恩氏(平壌写真共同取材団)
韓国のデイリーNKが20日、北朝鮮の金正恩党委員長が手術を受けたがその後の経過は良好だと伝え、翌日に米CNNが重体説を報じて以降、各国メディアには金正恩氏の健康状態を巡って様々な情報が飛び交っている。
中国からは死亡説まで聞こえ、ロイターは北京発で、「中国は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長についての助言を行うため、医療専門家や高官を北朝鮮に送った」と報じた。ロイターによれば、医療専門家らが出発したのは23日で、重体説などが出た後だ。それにこの時期の派遣なら新型コロナウイルス対策である可能性が小さくないが、それよりも、金正恩氏の健康問題と結びつける向きが多いようだ。
公開処刑の懸念
一方で韓国政府は、金正恩氏は健在で東海岸の元山(ウォンサン)に滞在中だと自信満々に説明している。いずれにしても、15日の祖父の誕生日に姿を現さなかったことを考えると、金正恩氏はどうやら平壌を留守にしているようだ。
そんな中、平壌では買い占め騒動が発生し、一部で混乱が起きているという。新型コロナウイルス対策である種の品目の輸入が規制されたためだが、最近は治安が悪化しているとの情報もあり、今後が心配ではある。何が心配かと言えば、北朝鮮当局が極端な締め付けに出ないかどうかだ。こうした事態が起きるたび、北朝鮮当局は公開処刑などの恐怖政治を強化してきた。
(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた)
平壌の情報筋は24日、韓国のデイリーNKに対し、「党中央と内閣の共同決定書が通知されて以降、物価が上がり続けており、買い占めに走る人が出ている」と伝えた。情報筋によれば、党中央委員会と内閣は17日、国家経済に優先的に必要でない物品の輸入を縮小することを盛り込んだ共同決定書を全国に通知したという。
するとその翌日から、平壌では買い占め現象が現れ始め、各種店舗で販売されている輸入食品や調味料、電子製品の価格が大幅に上がっているという。
情報筋によると、平壌では最近、これ以前にも2回にわたり買い占めが発生した。最初は、新型コロナウイルス対策で国境が封鎖された直後。
そして2月下旬頃、各地域のも党委員会を通じて「一ヶ月分の食糧を自主的に備蓄せよ」との指示が下されたときだ。このとき、平壌には備蓄指示は出なかったが、地方から情報を伝え聞いた市民らが、配給が止まることを懸念して買い占めに走ったのだ。
おそらく、北朝鮮国内の人々には海外で流れている金正恩氏の「重体説」や「死亡説」はまだ届いていないだろう。こうした情報が国民の耳に入れば、混乱はいっそう広がるかもしれない。
重体説の金正恩が「心の友」に発信し続けたメッセージ
高英起 | デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト 4/24(金) 5:02北朝鮮の金正恩党委員長が22日、シリア・アラブ共和国のバッシャール・アサド大統領が金日成主席の生誕記念日である「太陽節」(4月15日)に際して祝電を寄せたことを受け、答電を送った。朝鮮中央通信が伝えた。
イスラエル軍と死闘
金正恩氏を巡っては、米CNNの報道をきっかけに重体説が取り沙汰されている。最高指導者となって以降、15日の太陽節当日に欠かさず参拝してきた錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を、今回は参拝した様子がうかがえないことがこうした見方を補強している。
しかし朝鮮中央通信の報道によれば、金正恩氏は15日以降、シリア、ジンバブエ、キューバの首脳にメッセージを送っている。特にシリアのアサド氏に対しては、17日に独立74周年の祝電を送ったのに続き2本目だ。
シリアのアサド政権と北朝鮮の金正恩体制は、きわめて強い絆で結ばれている。両国の関係が深まったきっかけは第4次中東戦争である。正恩氏の祖父である金日成主席が、アサド氏の父であるハーフェズ・アサド大統領らの求めに応じて空軍パイロットを派兵。ともに、強力無比なイスラエル空軍と戦ったのだ。
(参考記事:第4次中東戦争が勃発、北朝鮮空軍とイスラエルF4戦闘機の死闘)
把握されている限り、金正恩氏とアサド氏は会ったことはない。それでも、金正恩氏がアサド氏との関係を重視してきたのは明らかだ。朝鮮中央通信の報道を見る限り、金正恩氏が毎年必ず誕生日の祝電を送る相手は、ラオスとキューバの首脳、そしてアサド氏だけだ。
金正恩氏がアサド氏との関係を大切にするのは、自分の祖父とアサド氏の父の間で築かれた「血盟」のためだけでなく、ともに小国ながら、米国の圧力に立ち向かっている「同志」のように考えているのではないか。つまりは「心の友」とも言える間柄だ。
また、アサド氏も2018年5月30日に駐シリア北朝鮮大使と歓談した際、「今後、朝鮮を訪問して金正恩閣下に会う決心である」と発言。さらに「シリア政府は今後も、朝鮮指導部の全ての政策と措置を全面的に支持し、朝鮮との友好関係を変わることなく強化し、発展させていく」などと述べたという。
このような両首脳の関係を考えたとき、仮に金正恩氏が病床で重篤な状態にあるとしたら、北朝鮮指導部は金正恩氏本人になりすまし、アサド氏に対して「偽装メール」を送るようなことをしただろうか。ちなみに脱北した元外交官によれば、金正恩氏の外国首脳に対する祝電は、発信の半月前までには完成させ、最終的な発信の判断は第1外務次官が行うという。
韓国のデイリーNKは、金正恩氏は12日に心血管疾患の手術を受けたが、順調に回復していると報じている。
金正恩氏の健康に何か問題があったとしても、重篤な状態ではなく、デイリーNKの報道が真実に近いのではないかと思う根拠のひとつである。