崩れ行く欧州社会の「深刻すぎる実態」…!「ガソリン代を払ってクルマ出勤するぐらいなら、失業手当で生活する」
街に溢れる求人広告
ここ数ヵ月ほど、以前は見られなかったものがオランダの街中で多く見られるようになりました。それは、あるお店には窓に、またあるお店には大きな看板に貼られた、求人広告の数々です。
ヨーロッパ各地に店舗を展開する雑貨店「HEMA(ヘマ)」やファストファッション「MANGO(マンゴ)」、オランダの大手食料品店「Albert Heijn(アルバート・ハイン)」や老舗高級デパート「Bijenkorf(バイエンコルフ)」、ドラッグストア「kruidvat(クライドファット)」などの店先に、やたらと求人ポスターが貼ってあるのが目に付くようになりました。
「私たちのチームに参加しよう!求人に応募して私たちと一緒に成長しよう!」
スペイン・バルセロナ発のファストファッション「MANGO」店頭に掲げられた求人ポスター[photo by Satomi Chihara Bittner]
そんな、従業員を募る広告があちこちに掲げられている光景は、コロナ前には見られないものでした。
これらの広告の中には、バーガーキングのようにボーナスが最大1000ユーロ(約13万8000円)まで出ることを謳ったものや、18時以降のシフトには25%給与が上乗せされること、スポーツジムの割引が受けられることなど、「従業員になることの特典」が目立つように書いているものが見受けられます。
ポスターには「手取り最大1000ユーロまでのボーナスにサイン!バーガーキングで一緒に楽しく働こう」との文言が躍る。その下には、年齢別の額面給与が記載されている。20歳以上の時給は約1700円[photo by Satomi Chihara Bittner]
他にも、パートタイムとフルタイムを同時に募集したり、英語でも広告を出したり…と、どのお店も必死に求人広告を作っている様子がうかがえるのです。
ごみ箱と化した車両
人手不足に悩んでいるのは小売店だけではなく、交通会社も同じです。デン・ハーグ市とその近辺で路面電車を展開するハーグ市営交通会社の場合、普段は遅延情報などを表示する駅の電光掲示板にまで求人広告を打つようになりました。
デン・ハーグ中央駅の液晶パネルに映し出されるオランダ鉄道の求人広告[photo by Satomi Chihara Bittner]
オランダ鉄道は、賃上げを交渉すべく8月末に数日間に及ぶ大規模なストライキを行い、これによりオランダ全土で電車が全く動かない日もありました。
正直なところ、ここ数ヵ月のオランダ鉄道の車両は、以前に比べてかなり汚くなってしまった印象です。床に飲食物が散らかり、ごみ箱のようになってしまった車両に私は何度も乗車しました。人手不足により、車両内の掃除にまで手が回っていないことは明らかです。
人手不足による混乱は、国の顔とも言える空港にも及んでいます。
ヨーロッパで最も利用者が多い空港の1つであるアムステルダムのスキポール空港は、もう何ヵ月も深刻な人手不足に悩まされています。頻繁にフライトがキャンセルになり、搭乗者がトラブルに陥ったケースがインターネット上でも数多く報告されています。
セキュリティ・チェックを通るのにかなり時間がかかるため、Twitterでは「4~5時間前に空港に到着していた方が良い」といった情報が拡散されました。これを受けて、空港側は公式HPで「混雑を避けるために4時間以上前には来ないで」と呼びかける事態まで発生。あまりの混雑ぶりに、9月12日には16時から23時までの間、いくつかのフライトをキャンセルするよう、空港が航空会社に要請したほどです。
この混乱の影響で、9月15日には空港を運営するスキポール・グループのCEOが辞任、翌日には「10月末までに搭乗乗客を1日平均9250人削減」することが発表されています。
今の給料から生活費を捻出するのは苦しい
人手不足が問題になっているのは、オランダだけではありません。イギリス在住の30代男性(大手業務用工具店・支店長)はこう語ります。
「イギリスではガス、光熱費、そして戦争の影響でガソリンも値上がりしたが、給料は上がっていない。僕の会社では、中間管理職が上層部に『給料が上がらないせいで、従業員は高いガソリンを買って出勤するか、それともガソリンを買わずに(出勤せずに)高い光熱費を支払うかの選択を迫られている』と賃上げを要求したものの、却下された。
今の給料からガソリン代・食費・光熱費を全て出すのは大変苦しいので、仕事を辞めて政府の失業手当てを貰って過ごすことを決めた人もいる」
さらに、同じくイギリス在住の30代女性(科学者)は、最近こんな経験をしたそうです。
「バーに行ってビールを頼んだけれど、結局自分でカウンターまで行ってサーバーからビールを注ぐことになった。従業員が殆ど辞めてしまったので教育が行き届いておらず、新入りの従業員はビールサーバーの使い方すら知らなかった」
人手不足は、オランダやイギリスを始め、ドイツやフランスでも同様です。フランスでは運送業や空港、鉄道のほか、商業や金融サービス、エネルギー産業など様々な業種において、賃上げを要求するストライキが多発していることが報じられています。
なぜこのような事態が起きているのでしょうか。
後編記事『いま、欧州で仕事へのヤル気を失う若者たちが急増中…!コロナ・インフレ・戦争の「三重苦」の、ヤバすぎる現実』では、現在、ヨーロッパで”Quiet Quitting”(静かに辞める)という言葉がトレンドになっている背景について、お伝えします。