EVシフトに中古の壁 再販価値下落で企業・消費者敬遠
自動車
2024年3月30日 2:00
深尾三四郎
脱炭素対応に伴う電気自動車(EV)シフトにブレーキがかかっている。原因は中古車・リース車市場にある。リセールバリュー(再販価値)が急落し、世界的に企業や消費者にEVを避ける動きが広がる。欧州では消費者が買い替えをためらい、ガソリン車の保有年数が延びている。
「今後、社有車としてテスラを購入してはいけません」。ドイツのソフトウエア大手SAPは今年に入り世界の従業員にこう通知した。営業回りなどに使う社有車は計2万9千台で、テスラ車の割合は2%程度だ。
環境負荷の低いEVへの切り替えは企業イメージを高められるが、SAPは保有リストからテスラを除外すると決めた。独レンタカー大手シクストも2023年12月、テスラ社のレンタカーを利用できなくなると、自社の会員に通知した。
企業によるテスラ離れの理由は再販価値の下落にある。社有車やレンタカーは数年後に中古車市場に売却されるのが一般的だ。だが、テスラは欧米・中国で新車の値引きを繰り返したことで中古車の価値が下落。企業の資産管理を難しくした。主力セダンの「モデル3」は新車価格の半分近い2万〜3万ドルで中古市場で取引されている。
価値の低下はEV全体で広くみられる。中古車検索サービスの米アイシーカーズが230万台超を調査した結果、23年10月の中古EVの平均価格は3万4994ドル(約520万円)と22年10月と比べ34%下がった。中古車全体は5%減の3万972ドルでEVの下落率の大きさは顕著だ。
米レンタカー大手のハーツ・グローバル・ホールディングスは1月、24年末までに保有車の4分の1をEVとする目標を取り下げ、保有EVの3分の1にあたる2万台を売却すると発表。ガソリン車回帰による再販価値の向上や整備コストの低減で25年にかけて2億5千万〜3億ドルのキャッシュフロー改善を見込む。
EVの中古市場は未成熟なままだ。電気モーターで駆動するEVはエンジン車と比べて車体の整備や修理が難しい。EVを扱える独立系の整備工場は少なく、現状は割高な車大手系列のディーラーに頼らざるを得ない。
EVのコストの3割前後を占める車載電池の問題も大きい。電池は利用環境や充放電の頻度などで劣化の度合いが異なるため、走行距離だけで評価しづらい。中古車販売企業はEVを買い取る場合に実態よりリスクを大きくとる傾向がある。
そもそもEVの技術革新のスピードが速く、数年前のモデルでも航続距離や充電時間など機能面で新型車に大きく劣っている。こうした状況から短期間でEVを手放す例が後を絶たず、価値の低いEVが中古市場に氾濫する事態が生じている。
欧州は新車販売全体におけるリース車の割合が半分を占め、日本(15%程度)より高い。フランスのALDオートモーティブなどリース上位7社で、欧州の新車販売の3割に達する。リース形式で自動車を利用する消費者も多く、再販価値への意識はもともと高い。
リース会社はリース期間終了時点の残存価値を算定し、それを除いた金額をリース料として顧客に請求する。このため中古価格の下落はリース料の上昇を招き、新車需要も冷やしかねない。
独自動車研究センターのヘレーナ・ビスバート所長は「中古価格の不透明さから、欧州ではEVに切り替えたくても様子見を続ける消費者が増えており、エンジン車の保有年数が逆に延びている」と指摘する。
もっとも長期的にはガソリン車からEVへのシフトが見込まれる。英調査会社ロー・モーションによると、EVとプラグインハイブリッド車(PHV)の23年の世界新車販売台数は22年比31%増の1360万台だった。22年の60%増より伸び率が縮んだものの、市場の拡大は続いている。
欧州では中古EVの車載電池を取り出し、蓄電池などに使う動きもあり、二次利用を残存価値として評価する流れが出てきた。中古EVの価値下落は、エンジン車の真の代替となるのに欠かせない成長痛でもある。
(フランクフルト=林英樹)
EVの残存価値はiPhoneではなくandroid型のようだ